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ID制のチャットとは手が込んでるな、とメシスは心の中で呟く。 「701080……でよし。さてと……『ミルタ生きてるか?』」 このチャットのアドレスもチャットIDも、ごく一部の人にしか教えていない。つい最近作ったばかりだが。 「って、まだ我しか来てないか」 わざわざこんなチャットを設けたのにもちゃんと理由がある。事の始まりを思い返していると誰かが入室してきた。 ☆かんりにん>ミルタさん いらっしゃいませ メシス>みんなは? (X/XX-XX XX XX) ミルタ>もう少ししたら来るわ (X/XX-XX XX XX) ☆かんりにん>シャインさん いらっしゃいませ ☆かんりにん>riafさん いらっしゃいませ ミルタ>ナメテュイは? (X/XX-XX XX XX) シャイン>知らないw (X/XX-XX XX XX) riaf>連絡ないですね (X/XX-XX XX XX) メシス>とりあえずオフ会の話しないか? (X/XX-XX XX XX) ミルタ>そうね~ (X/XX-XX XX XX) ミルタ>人は十分集まったし、予定通り出発できるわよ (X/XX-XX XX XX) シャイン>福田さんから連絡はあった? (X/XX-XX XX XX) ミルタ>あったわよ (X/XX-XX XX XX) ミルタ>福田さんは現地で合流するって (X/XX-XX XX XX) シャイン>ねえ (X/XX-XX XX XX) メシス>ん? (X/XX-XX XX XX) シャイン>福田さんって金持ちだよね。バスや宿泊地まで用意するなんてハンパじゃないよ (X/XX-XX XX XX) ミルタ>確かにそうねw (X/XX-XX XX XX) riaf>確かにねw (X/XX-XX XX XX) メシス>実は手の込んだウソとかw (X/XX-XX XX XX) シャイン>ありそうw (X/XX-XX XX XX) ミルタ>困るわよ~ (X/XX-XX XX XX) riaf>本当かどうかは一応確認しましたよ (X/XX-XX XX XX) シャイン>え? (X/XX-XX XX XX) riaf>いや、その……僕の方から話をつけて (X/XX-XX XX XX) riaf>リアルで会いました( ・o・)ノ (X/XX-XX XX XX) メシス>すごw (X/XX-XX XX XX) riaf>とりあえず (X/XX-XX XX XX) riaf>信憑性はあると思います(・∀・) (X/XX-XX XX XX) シャイン>riaf… (X/XX-XX XX XX) シャイン>そういうことは早く話して (X/XX-XX XX XX) riaf>すんません( ̄□ ̄;) (X/XX-XX XX XX) メシス>さあ (X/XX-XX XX XX) メシス>後は明日を待つだけだ (X/XX-XX XX XX) ミルタ>私たちでオフ会したときは楽しかったわね~ (X/XX-XX XX XX) シャイン>懐かしいね (X/XX-XX XX XX) メシス>まあな (X/XX-XX XX XX) ミルタ>今回も楽しみじゃない? (X/XX-XX XX XX) シャイン>最近糞な住民が多いからな…… (X/XX-XX XX XX) riaf>シャインさん怖w (X/XX-XX XX XX) シャイン>私たちが頑張らないとね (X/XX-XX XX XX) メシス>そうだな (X/XX-XX XX XX) メシス>…寝よう (X/XX-XX XX XX) 「『んじゃ、また明日』……と」 G県S市――福田直人のホームページ第1回オフ会の集合予定場所。何十人ものオフ会参加者が送迎のバスを待ちわびている。 「遅いわよナメテュイ!」 バスの到着時間間近になってなめぇがやってきた。悪びれる様子はない。 「メシス、そっちの子は?彼女か?w」 なめぇはメシスの隣で携帯をいじってる少女を見る。 「動。我の幼馴染…だ」 幼馴染の動とは小学校の時から一緒に過ごしていた。 彼女には一方的に弄られた記憶しかない…といっても、お互い高校生になった今も変わらないが。 そのうちバスが来た。皆、続々とバスに乗り込んでいく。 「凄いわね。これってオフ会って言うより修学旅行じゃない?」 ミルタが呟いた。 「まぁな。結構な金持ちみたいだな…福田さんって」 「金持ちの考えることはわかんねーなw」 後ろの座席から声がした。なめぇだ。 「大掛かりな交流会だと考えればいいんですよ!(・_・)それに、福田さんは立派な人ですよ」 そういえばriafは福田と直接会って話をしたんだった。 別に福田さんを疑っているわけじゃない。あまりにも出来すぎた話だから、つい色々考えてしまうのだ。 * * 「ルイ太郎さん…だよね?」 「そのハスキーボイス…とみーさん?とみーさんだよね?」 ルイ太郎にとみー、お互いネットで声を晒し合った仲だ。 「ルイ太郎さんもやっぱり美声ですねー」 「ぜひ一緒に『残酷な天使のテーゼ』歌いましょうね!」 「あの…ナニトシさん」 「ナニトシぷら…いや、レニアルです。あなたは?」 「中村です。レニアルさんよろしく!」 「僕はレニエルだ!間違えるな!」 自分で間違えたんじゃん…… 「僕もYTさん目指して頑張ります!」 「いや、俺がそのYTなんだが…」 戸惑うYT。このヘルコンドルという住民、なぜか自分に憧れているらしい。 「あなたがYTさんなんですか!」 「あぁ。しりとりも強いぞ」 「『る』で攻めるから強いんですよね! 「まあな。ってかお前って可愛いよな…」 「えっ!?」 * * バスが出発してから、どれくらい時間が経ったのだろうか。 心なしか眠気を感じる。睡眠は十分に取ったはずなのに。 「いかにも裏って感じの人もいるな」 眠気をごまかそうとミルタに話しかける。 「そうね、メシテュイ…」 ミルタもいかにも眠そうな様子だった。 「……私寝るわ。おやすみ」 そう言うと、肘掛にもたれ掛りそのまま眠ってしまった。 「おい、ミルタ…」 起こそうとするが、体に力が入らない。次第にまぶたは重くなっていき、船漕ぎを始める。 なぜだろう。周りもさっきまで騒々しかったのに、今は声ひとつ聞こえない… その理由を考える余裕もなく、メシスの意識も深い闇へ沈んでいった。
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沖縄――TCエネルギーが満ち人の生存領域ではなくなった場所。 気候は安定せずに荒れ狂い、時間は人々が感知できぬほどに乱れ、物理法則は意味をなさなくなった。 このような場所になった故に動植物は死に絶え元々あった道具すらも壊れ果てた。 幸いこの異常は霧切響子の張った結界により今の所外に漏れだす気配はない、これは結界が再構築された際TCエネルギーも吸収したことによるものだろう。 そして、この魔境にて相争う二人の影が舞っている。 一人はテラカオス・ディーヴァ、狂った救世主にしてすべての希望になりえる最初のテラカオス。 もう一人はテラカオス・ディーヴァ・シャドウ、何もかもが不明なTCエネルギーを纏いしディーヴァが滅ぼすべき存在。 そのような強大な二人が終わる地沖縄にて激戦を繰り広げていた。 「ハァ!!」 「……………」 ディーヴァの気合いの入った鋭き掛け声とともに繰り出される無数の技。それら全てが一撃必殺の威力を誇る。 それに対しシャドウはサタンサーベル・摸写を無尽蔵に振った、ただそれだけだった、しかしその後に不可思議な現象が起こった、 無数の斬撃がディーヴァの無数の技を迎撃したのだ。 「ッ!!」 全ての技が迎撃されディーヴァは奥で歯ぎしりしながらも後方に飛びのいた。 それをシャドウは迎撃することもなくただ見ていた、そして変わらず悠然と立っている。 (途轍もなき存在だ……私が思っていたほどにな) 幾度も行った交差の数秒の攻撃の連続、されどその全てをシャドウは迎撃し、すべてを無効とした。 己の摸写存在であるシャドウに有効な技をこの刹那の攻防で作り上げた技をだ。 最初に放った一撃を余裕で防ぎきられ心にかすかに残っていた摸写存在に対する慢心すらも捨て去ってもこれだ。 (ああ、だが感じるぞ私がこの戦いで成長する感覚を) そう、この時間が狂った世界での戦いはディーヴァの実力は天才すら超える速度で成長していった。 刹那の中で生み出した技がその成長の一つと言ってもいいだろう。 だが、その成長ですらも未だシャドウの実力には到底及びはしていなかった。 「…………」 ディーヴァをじっと見ていたシャドウが動く気配を見せた。 それを感じたディーヴァは咄嗟に警戒態勢を取った、だがそれは何ら意味をなさなかった。 なぜなら、その警戒態勢ですら反応できないほどに速く、見れば顔が触れられるほどに距離を詰められていた。 「おおッ……!!」 しかし、コンマ一秒でディーヴァがシャドウに対し必死の攻撃を仕掛けた。 突飛ばし、ディーヴァが放ったその攻撃はシャドウを見事に突き飛ばすことに成功し、シャドウは勢いよく吹っ飛ばされた。 だが、ディーヴァはそれに対し少しの違和感を感じた。 「……どうゆうことだ」 そう、自分の無数の技を防いできたシャドウがここに来てディーヴァの攻撃をもろに食らってしまったからである。 普通であれば防ぎ、そこから攻撃を食らわせることができるだろう、ましてやシャドウほどの存在であるのなら。 だがシャドウはディーヴァの反撃になんらの行動を示さずに受けたのだ。 「もしや経験は模倣していないのか?」 そう思い至り、ディーヴァはシャドウと戦った刹那の記憶を引き出していく。 そして気が付いたのだ今までの戦いでシャドウの攻撃は今までの自分の模倣であるということに。 あの無数の技を迎撃した無造作な剣の振りも己がやった振りとそっくりであったのだ。 「まだ生まれて間もない赤子のようなものか、それならば好都合だ」 ディーヴァはほくそ笑んだ、勝機はまだあるのだと思えたがゆえに。 素のスペックでは恐らくシャドウの方が上だろう、その事に関してはディーヴァは異論を持たない。 しかしである、経験は生まれながらに持てる物ではなく、ならば経験と言う一点ならばディーヴァは相手を上回るのだ。 「だがそうなるとすれば決着は早く済ませなければならないか」 そう、少しの興奮を抑えてディーヴァは結論付ける。 何故かと言われれば、シャドウもまた己と戦うことにより経験を得るだろうという確信があったからだ。 シャドウはまだまだ強くなる無限に――ならば阻止しなければならない。 「……終わらせよう、次の一撃にて」 ディーヴァは決意した、必ずやあのおぞましき存在を次の相対するとき、一撃で葬り去ると。 そうしてディーヴァは動き出す、シャドウが吹っ飛ばされた方向へと。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 「……………」 吹き飛ばされながらシャドウは思考する、そう思考する。 本来、破壊の化身としてこの地に顕現した存在であるシャドウには本来必要のない機能だ。 だが、シャドウにはその機能が備わっていたのだ、そしてその機能がディーヴァとの戦いの末に完全な形で機能し始めたのだ。 「…………」 シャドウは思考する、なぜ自分がディーヴァに吹き飛ばされたのかと、スペックでは自分が上回っているはずなのにと。 高速で接近しぶつかる、そうすればディーヴァは死なずとも途轍もない重傷を負ったはずだ、シャドウの単純な力はディーヴァを上回っているのだから。 だが現実はそうならずディーヴァは無傷で自分が吹っ飛ばされている有様だ、幸いダメージは負わなかったが。 何が駄目だった、何がいけなかった、そう思考を続けに続ける。 「…………」 だがダメだ、思いつかないのだ何がダメだったのかが。 しかしそれは当然だった、何せシャドウは生まれたばかりの赤子に等しいのだ、それが経験であると気づけるはずではないのだ。 ならばと、シャドウに一つの思い付き浮かんできた。 そう、ディーヴァを徹底的に模倣することだ。そうすれば何か掴めるかもしれないと思い至った。 「…………」 最初に吹っ飛ばされているこの状況からの復活方法をディーヴァが行ったことをやってみることにした。 まず空中にて態勢を整え地上に足が付くように調整して、地上に足を付けた。 そしてそこから勢いを殺すためにしっかりと足に力を入れる、しかし足に力を入れてもなお勢いを殺しきれずに勢いよく後ろにスライドする。 沖縄の大地に大きなダメージを与えつつも更に足に力を入れて勢いを殺しきりスライドが止まった。 「…………」 完全に止まった後にそのスライドの後をなんとなしに見つめる。 そしてこう思った、もっとうまく止まれなかったのかと。 そこからシャドウは脳内でシュミレートし始める、どうやればもっとうまく止められたかを。 なぜこの思いが出てきたのかはシャドウにも分からない、だが必要だと何故かそう考えてしまう、シュミレートすることが。 「…………」 「――ようやく見つけたぞ」 ディーヴァの声が聞こえた直後にシュミレートを一時中断し前を見る。 そうすればディーヴァの姿が見えた。 「ここで終わらせる」 「…………」 その言葉とともにディーヴァは構えを作る、剣を主体とする構えだ。 それに対しシャドウもまた見様見真似でディーヴァの構えをまねる、その構えは完全に同じものだった。 「なるほど、今度はこれを模倣したか」 「…………」 ディーヴァがポツリとこぼし、シャドウは変わらずに何も答えない。 剣の構えと同時に静寂の時間が訪れた、その時間は数分か数時間か、壊れた時間の中の沖縄には正確に測れぬことだ。 「………ッ!」 「………!」 瞬間、二人同時に動いた、ディーヴァは己の今までの場数による勘にて、シャドウは相手に合わせて。 それは再びの一瞬の交差、しかし今までのように無数の技が飛び出すのではなくそれ唯の一撃で決まる交差だ。 ディーヴァは己の経験全てとTCエネルギーを吸収したが故に、シャドウはそのスペックゆえに。 「…………」 「…………」 そして、もはや人の領域を脱した一つの交差が終わり、両者ともに相手が立っていた位置に立っている。 暫くの静寂、その間二人は相手に振り向かずにいた。 そして暫くの地に体勢を崩し倒れる――シャドウ。 (紙一重であった) そう心の中で呟くディーヴァ。 剣の構えの摸写、されどその模写によって己が使った剣のやり方をもすべて摸写しきったのだろう、あの一瞬ですべて理解できた。 そうあの一瞬、ディーヴァがシャドウとの戦いでの最高の一撃をシャドウは繰り出し再現してきたのだ。 (だがそれ位予測できることだ、それを形作ったのは己なのだから) ディーヴァはシャドウがどの技を繰り出してくるのか分かったのだ、その技を繰り出す専用の構えをシャドウをしていたのだから。 だから、ディーヴァはあの一瞬の交差でシャドウがその技を繰り出した際、その技を最小限の動きで躱し、躱した直後に一撃を叩き込んだのだ。 しかしリスクはあった最小限の回避も動きを出来るかと言うことだ、二人の格闘家捕食していたとはいえこのような超高速戦闘では早々にできない動きだからだ。 だがそれを成し遂げ、ディーヴァは勝利者となったのだ。 「ああ、だがこの戦いとても良きものだった」 そう言ってシャドウの方を振り返る、振り返った先のシャドウは倒れた時から何とか片膝を付いている状態だ。 そこから動く気配も感じられない、しかし地とは違う黒色の水分を含んだものを流れ出していた。 「感謝しよう、この戦いで私はさらなる力を手に入れられた」 そう言って、一歩一歩シャドウに向かって近づいていく、今までの戦いを噛みしめるかのように。 今までの戦いの経験を己の者にするかのように。 「その感謝としてこの手で止めを刺そう、もっとも聞こえているとは思えないがな」 得意げに、余裕ありげに、しかし体に出ていないだけでその肉体は結構なダメージを負ってしまっている。 だがそれを覆い隠しての救世主だとディーヴァは思う。 そして、シャドウの近くにより。 「――さらばだ」 ――そのサタンサーベルをシャドウの首に向けて振るった ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ シャドウの意識は混濁していた。 己が死んだのか、それともまだ生きているのか判断できないのだ。 だが一つわかることがある、己はあの一撃で今この状況に陥っているのだと。 「…………」 シャドウはその状況になっても一言もしゃべることはない、そのような存在であるからだ。 そして思考する、思考する、思考する。 この状況になって何の役に立つのか、だがそれでも思考をやめることはない、それが癖になってしまったのかとシャドウ自身は思う。 「…………」 諦めるという言葉をシャドウは知らない、それが破壊の存在として不必要だから、故に思考する思考する。 すると、何か見えてきた――それは光だった。 「…………?」 光――シャドウはそれに向かって歩き出すイメージをした、するとどうだろう光に向かって一歩前進したのだ。 コツを掴みシャドウはまた一歩、また一歩、前進する。 そして光のその先へとたどり着いたとき、シャドウは見た――生き生きとする者達を。 「…………………?」 シャドウは理解できなかった、なぜ人がいるのか、なぜみんな楽しそうにしているのか。 そうしてあたりを見回しているとピンクのロングヘアの女子が現れた。 「あら、新入りかしら?」 「…………?」 シャドウはその女性が言ったことが理解できなかった、自分がいた場所は人っ子一人いない場所だったからだ。 そんな場所にいた自分がなぜ人と出会っっているのかわからない、そうやって色々と困惑していると。 「あー、そりゃそうゆう反応もするわね私もそうだったし、……単刀直入に言うわあんた死んだのよ」 「…………!?」 死と言う単語が出てきてシャドウはさらに困惑した、そして納得もしたディーヴァの一撃はシャドウを殺しうる最高の一撃だったからだ。 だがそれならばなぜ自分は意識を保ってここにいるのかと次の疑問が沸いた。 そう考えるとピンクのロングヘアの女性が考えているのに気づかずに話しを続けた。 「そしてここは死者スレ、死んだ人たちが集まる場所らしいわ、……一回壊されたけど」 そのようにして語っていくピンク色のロングヘアの女性、しかしシャドウが死者スレの単語に反応した。 そう――ないはずの胸の奥がドクンと鼓動が鳴ったのだ。 「けれど安心して、死者スレに引っ越してた冥府の神様たちがここを再生させたからもう安全よ……って聞いているのかしら?」 聞いているように見えないシャドウにピンク色のロングヘアの女性は怪訝な顔をしてシャドウを見る。 シャドウは胸の奥の高鳴りがさらに大きくなっていくのを感じる、そしてこの胸の高鳴りがなぜ起こるのか、それを本能で理解した。 ――ああ、そうゆうことか。 シャドウが笑みを浮かべた。 そしてシャドウはピンクのロングヘアの女性の腕を掴んだ。 「ちょっ、私が可愛いからっていきなり掴むとか――」 ピンクのロングヘアの女性は気づいた、シャドウの掴まれた方の腕が黒く染まっていくのを。 「へっ……」 何故だか理解できぬままピンクのロングヘアの女性は一気に黒に包まれた。 そして、ピンクのロングヘアの女性の女性を黒く包み込み終わってから一気にシャドウから黒きものが放出された。 それは死者スレを飲み干すほどの黒きものだった。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ――ディーヴァがサタンサーベルをシャドウの首に向けて振るった直後、シャドウが黒く光った。 「なに!?」 ディーヴァは驚き一目散に後方へと飛んだ。 そしてディーヴァが見たものは――シャドウが黒き光を纏ってゆく姿だった。 「なにが……起きている……」 ディーヴァにとっても理解不能だった、なぜ瀕死であったシャドウがこのようなことになったのかと。 だから見守ることしかできなかった。 そして徐々に徐々に光が一つにまとまっていき、一瞬大きく光り――散った。 「…………貴様は………誰だ……」 散った黒の光の先でディーヴァは驚愕しながら問うた、己が見た先の存在、シャドウだった存在に。 その顔はディーヴァの元となった人物風鳴翼とそっくりでありながら髪は黒く、肌は灰色だ。 シャドウだった存在はしばし沈黙し、口を開いた。 「私はテラカオスエネルギーの一部であり、自身を形作った者」 「自身を形作った……?」 そうディーヴァはオウム返しに聞いた。 「左様、概念のままではこの世界に干渉できぬゆえに」 「…………何が目的だ」 ディーヴァは目的を問いかける、気を許さず、警戒していつでも仕掛けられるように。 「無論――世界の破壊と再構築」 その一言が出た瞬間にディーヴァは一瞬にして動き出す、この敵を存在を殺すために。 だが、それと同時にシャドウだった存在は無表情のまま、手を動かす。 するとディーヴァの周りに影が出来――ディーヴァは叩き落された。 「ガハッ……!?」 「無意味なりや」 そうしてシャドウだった者の近くに二つの人影が現れた。 それは、死したはずの存在、風鳴弦十郎とウルフオルフェノクだった。 ディーヴァに反応しそうな風鳴弦十郎なにも反応せずそこに立っていた。 「この……気配……まさか、死人を……!?」 「左様」 ふっ、とシャドウだった存在は笑った。 「私は貴様の一撃で生死を彷徨った、だが私はそのおかげでたどり着いた死者スレに」 「死者スレ……」 「左様、このロワイヤルにて戦い散って行った者達が集う場所だ」 「まさか……!」 「その通り、貴様のおかげで私はさらなる力を手に入れた、そう死者を召喚し意のままにすることができる」 ディーヴァは驚愕した、まさかそのようなことが起こるとはまったくもって思ってもいなかったのだ。 だが、それは仕方のないことだまさか死してそのような能力を得るなど普通は考えられないことだ。 「……もしくは私は死者スレを掌握するために生み出されたのかもしれぬな」 そうぼそりとシャドウだったものは呟いた直後、 ディーヴァは立ち上がった、なんとしてでもこの存在を滅するために。 「…………お前は生かしておけない」 「ほう、それはなぜか」 「私は多くの者を救済せねばならないからだ」 「そうか、ならば乗り越えてみよ」 そう言ってシャドウだった者は武器を生成して見せた、それは聖約・運命の神槍――死したラインハルト・ハイドリヒが使用していた武器。 それをディーヴァに向け、黄金の光線を発射した。 「……ツッ!?」 ディーヴァはその光線が自信を滅ぼして有り余るものだと勘ずき全力で回避した。 だがその回避した先で使役されている風鳴弦十郎とウルフオルフェノクが襲い掛かってきた。 「クッ」 それを危い動きで回避し、反撃として核攻撃を光線として発射した。 ドォンと言う派手な音共にディーヴァは体勢を立て直した。 そして撃った方を見れば、二人は今だに健在であった。 「……どうやら、仕留め損ねたようだな」 「だが見事、ギリギリの所で回避し二人が被弾する場所を一瞬で狙うとは」 そう、よく見れば二人は回避しきれなかったようでボロボロであった。 「クク、その実力と私の力の半分を持っている者達を此処までにするのはさすがと言ったところだ」 「ありがたいものだ」 そう言って警戒する態勢を崩さずに油断せずシャドウだった者を観察する。 どこかに逆転できるところはないかとじっと見つめる。 「無意味なり、いくら見たところで逆転は叶わず」 「……それはどうかな?」 「ほう?」 ディーヴァが発した一言にシャドウだった存在は興味深く反応した。 「疑問に思っていたんだ、なぜ力を得たお前が一気に勝負を付けずこんないたぶるような真似をするのかと」 「それが私の趣向だからではないのか?」 「いや、それはない、なぜなら貴様は破壊する存在だだから私は救わず貴様を滅すると決めた」 「ほほう、それで?」 「お前が持っている感情、だがお前の本質は破壊だ、決していたぶるなんて感情は出てこない」 一息、ディーヴァが言いを吐いて吸った。 「そしてその力を得たお前ならば私など一瞬にして滅ぼせる、そしてその二人の従僕も私を滅ぼせるほどの強化できるはずだ、だがそうはなっていない」 「ふむ」 「だからこう考えた――お前は死者スレを完全に掌握できていないのではないか?」 そう言った瞬間、シャドウだった者が大きな声で笑った。 見破られたと、そのような思いを込めながら。 「見事見事、短時間でよくぞ見破れた、それもまた私の対存在でもあるからかな?」 「どうだっていいそんなことは」 「うむうむ、確かに私は死者スレを完全に掌握できていない――死者スレで抵抗されているからだ」 「抵抗か」 「うむ、だがその抵抗も時間の問題よ、なんせ私のリソースの大半を死者スレ掌握に使っているからな」 「そうか、ならば勝機は見えた」 そう言ってディーヴァは二っと不敵な笑みを作った。 強がりだ、ただの。 「大半のリソースを貴様は作っているのだならば私でも滅せる」 「ふふ、やってみるが良いさ」 そう言ってシャドウだった者は風鳴弦十郎とウルフオルフェノクの二人を前面に押し出し自身は後方援護をする構えに入った。 ディーヴァは今ここに存在するTCを体を壊さないギリギリまで吸収する。 (ああ、そうか何故私が今ここに居るのか、わかった気がする) そう思い、TCを吸収しきった直後に、二人が攻撃を仕掛けてくる。 まずウルフオルフェノクがディーヴァですら捉えられないスピードで接近する。 それに対しディーヴァは静かに接近する瞬間を待ち――吸収したTCをエネルギーに変換。 「フッ!!」 「!?」 変換したエネルギーを放出し、一時的に能力を向上させてディーヴァはウルフを捉え接近してくる場所を先読みし。 そのまま到着するのと合わせるようにしてサタンサーベルを振りぬいた。 ウルフはその攻撃をもろに受け、切られた真っ二つに。 「!!」 「クッ!」 だがその手ごたえを感じる前に弦十郎が急接近し発勁の一撃、正拳突きを放つ。 その攻撃をディーヴァは紙一重で回避する、だがこれは読まれ弦十郎はすぐにキックを放つ。 この攻撃を回避しきれずディーヴァは吹っ飛ばされる、しかし空中で姿勢を立て直し両手をフレミングの法則に変え。 その両手から接近せずに使用できる飛ばしフレミング法則から発生する電撃を飛ばした。 「…………」 その電撃を冷静に弦十郎は回避する、だがそれこそが狙いだった。 回避する場所が予測道理の位置であることを把握したディーヴァは再びエネルギーを放出。 回避場所に両手がフレミングの法則のまま突っ込んでゆく、そして弦十郎にフレミングの法則が直撃した。 「フン!」 そのままディーヴァは電撃を発生させ弦十郎を殺そうとし――黄金の光線が発射された。 「チィ!」 再びエネルギーを放出し光線の範囲外まで高速で後退する。無論ディーヴァとの戦いで重傷を負った弦十郎は回避できずに巻き込まれた。 「ひどいことをするものだな」 「死者ゆえに、私が呼べばまた復活する」 そう、この戦いで召喚された者は死人であり再召喚もたやすいためこのような方法を取れるのだ。 所謂支給品と同じ扱いのため放送でも呼ばれることはない。 「ではこのまま続けてゆこうか」 「チッ!」 シャドウだった者は聖約・運命の神槍から次々と黄金の光線を連射した、それをディーヴァは回避していく。 そうしながら徐々に接近していく、が。 「なるほどでは、これはどうであるかな」 そうしてシャドウだった者は四源の舞を発動、それで強化されたのは無論黄金の光線。 「やって、見せるともぉ!!!」 それに対し極太となった黄金の光線をディーヴァは翼を広げ空を飛ぶことで回避に移る、極太光線が当たらぬ場所まで。 「ツッ!!」 ギリギリであったが光線を回避することに成功、だが完全にとはいかなかった。 極太であり尚且つ強化された光線はその余波でディーヴァを着実に削ったのである。 「だが、空を飛んだことは無駄ではない」 空を飛ぶディーヴァはシャドウだった者に対し翼をはためかせ一気に急降下を開始した。 急降下しているときに捕食したお空のスペルカード強烈に発光させてを発動させる、それは「ヘルズトカマク」。 発動した直後、シャドウだった者の左右をふさぐ巨大な恒星弾を出現させ、そこから全方位に光弾をまき散らす。 「ハッ、笑止」 しかしシャドウはそれに対し慌てることなく神槍をまるで血を落とすかのように振るう。 すると、全方位にまき散らされた光弾も巨大な恒星弾もその振るいにより霧散させられてしまった。 だが、シャドウだった者は気づいたディーヴァがいないことに。 「むっ、どこへ?」 「………!!!」 ディーヴァは無言の気合と共にサタンサーベルをシャドウの後ろから横向きに振った。 その行動はシャドウだった者の不意を確実についた。 サタンサーベルが大きくシャドウだった者の体に傷を付けた。 「クッ……!」 「逃がさん!!」 そのまま離脱しようとするディーヴァにシャドウだった者はサーシェスの触手髭を展開、そのままディーヴァを捕らえる。 ディーヴァを捕らえて触手髭を左右自由自在に操り、ディーヴァを連続で地面にぶつけまくった。 さしものディーヴァも連続でしかも勢いよく地面にぶつけられたて無事なわけもなく。 全身から血があふれ骨は骨折した、驚異的な自己再生能力が追い付かないほどに。 「さあ、終わりにするとしよう」 「…………」 シャドウだった者がそう呟き触手髭にディーヴァを己の元へ連れてこさせた。 それにディーヴァは無抵抗だった。 ディーヴァの体をシャドウだった者は手を使って浮かせる、その動作は嘗てのアナキンのジェダイそしてシスが使っていたフォースの使用方法だ。 「感謝しよう、貴様のおかげで私は己の本分を果たせそうである」 「ああ……そうかい……!!」 この状況になっても不敵に笑うディーヴァにシャドウだった者は疑問に思う。 なぜそんなに笑っていられるのかと。 「……いや、詮無きことだ」 そう言って神槍をディーヴァに向ける。 「貰うぞ、貴様の魂」 そして、神槍をディーヴァに突き刺す前にディーヴァから膨大なエネルギーを感じた。 だが、シャドウだった者が気づいた時にはすでに遅く――ディーヴァから金色の焔が発射された。 「!?、ガァァァァ!?」 ディーヴァの全身全霊をこめた一撃は何もできないと思っていたシャドウだった者に直撃した。 シャドウだった者が金色の焔に飲まれ、数分性質ディーヴァは地上に落下した、あたりに煙が立ち込める。 「ふっ……最後の最後に油断したのがお前の敗因だ」 ディーヴァがそう金色の焔を発射した場所に目を向けながら言った。 だが、ディーヴァも無事ではないあの焔を放った反動のせいでまともに立ってなどいられない。 「このまま自己再生するのを待つか……しかし、ここまで消耗されるとはな」 「――ああ、私も予想外だとも」 その言葉が聞こえディーヴァはぎょっとし、すぐさま顔を上げる。 すると煙が晴れた場所そこには全身ボロボロながらも歩いてくるシャドウだった者がいた。 「なぜだ……」 「あの一撃は確かに効いた、私が消滅を覚悟するほどにな」 そうディーヴァを称賛する。 「だが、私は死者スレに割いていたリソースの多くを私が模倣した貴様の能力、そのうちの自己再生に当てたがゆえに耐え切った」 「…………」 「おかげで死者スレの掌握がさらに遅れるが致し方なしよ」 シャドウだった者は手をかざし自分がいる場所に引き寄せるように手を動かした。 するとディーヴァが一気にシャドウだった者がいる方向へと引き寄せられる。 そして、ディーヴァはシャドウだった者が取り出した聖約・運命の神槍によって串刺しにされた。 「ガッ……!!!」 「頂くぞ、その魂」 神槍に魂を吸い取られる感覚をディーヴァは感じた、そしてそれがまずいことも。 「グゥ……な、ガハッ……!」 「抵抗は無意味だ、大人しく吸収されるが良い」 「だ、れがぁ!」 激しい感情を発露したディーヴァにTCが集まってゆく。 これにはさすがにシャドウだった者も驚愕した。 「まだ、まだこれほどのことができるとはな!」 「うおぉぉぉぉぉ!!」 だが、どれほどTCを集めようと最早ディーヴァに勝ち目はなく、だからこれ以上の強化を防ぐ。 即ち、己の肉体を破棄し魂を飛ばす術を実行する。 「ハッ、無意味、そのようなことをしたところで結局のところ私に吸収されるだけなり」 「それはどうかなぁ!!」 ディーヴァがやろうとすることの意図を見破り、無意味と嗤うシャドウだった者。 だがそれでもディーヴァはやめることはない、救世するものである自分がこのような破壊の権化ともいうべき存在の力になるのはごめんだからだ。 「ハアァァァァ!!」 「クッ、まさか本当にやり切ると言うのか」 少しばかりシャドウだった者が動揺する、そして魂を吸い取るスピードを速めた。 だが、それでも間に合わずに。 (道半ばに倒れるのは無念だ、ならば次に託すとしよう、次の『私』よ成し遂げろ) その思いと共にディーヴァと言う存在は消え去った。 【テラカオス・ディーヴァ@テラカオスバトルロワイアル十周目 消失確認】 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 「………ああ、まったく最後の最後までやってくれたものよ、怨念の集合体にして混沌と殺戮と言う存在では私に敵わぬというのに」 シャドウだった者が愚痴をこぼす。 ディーヴァ最後の抵抗により魂の吸収は規定の3分の1になってしまったからだ。 これでは完全に力が発揮できるようになるまでどれだけ時間がかかるのやら。 「死者スレの掌握に自己回復、やれやれリソース管理が面倒になってしまったがやむを得ないか」 そう言って椅子を生成し座る、この程度の生成ならばシャドウだった者は容易になしえるのだ。 「さて、あの存在が放出した魂いずれ実体化しどこぞへと落ちるだろう……その前に潰しておく必要がある」 呟きチラリと沖縄の外を見る、シャドウだった者は忌々しそうな顔をした。 そう、霧切響子によって張られた結界が再生し更に強固になっていることに。 「ああ、忌々しきかなこの結界はあの者を模倣し魂を吸収した私にも反応するとはな、それにTCを吸収し強固になっておるわ」 吐き出した、ふぅと一息つく。 「テラカオスエナジーは本来中立的な物、善も悪もなし強き思いに反応するが、これほどとはな」 今のシャドウだった者ではこの結界は壊せない、そう感じるほどに強固になっていたのだ。だからこそあの激しい戦いにも耐えたのだろう。 だが力を取り返したならば分からないが。 「だが、私以外の者には無効と言う事らしいな、ならば」 指をパチンとならす、すると三人の死者が召喚された。 「行け、あの者の魂を破壊せよ、ただし単独行動は控えよ貴様たちは私の眷族になり強化されたがそれでも殺されることがあるからな」 召喚された死者たちはその言葉に頷き、そのまま魂の追跡を始めた。 「これで今は良しか、だが召喚できる死者が三人だけとは参ったものだ」 椅子に座りながら呟き空を見る。 「さて、私が世界を滅ぼすかそれとも時間切れとなり大災害が世界を滅ぼすか、それとも人が勝つか、結末はどうなるか」 【二日目・15時30分/沖縄県】 【シャドウであった者@テラカオスバトルロワイアル十周目】 【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、休憩中、弱体化 【装備】聖約・運命の神槍@Dies irae 他不明 【道具】不明 【思考】基本:世界の破壊 0:あの者の魂の破壊 1:死者スレの掌握 2:体力と傷の回復 ※シャドウが現れた沖縄ではTC値が増大しています。 ※ディーヴァの捕食した能力も込みで持っているようです。 ※死者スレを掌握、しかし掌握途中のため使える能力には制限がある模様。 ※死者たちの召喚や使用していた装備なども使用可能、ただし掌握途中の為、制限あり。死者召喚は三人まで。 ※死者スレ掌握及びディーヴァとの戦いでの傷を癒すのにリソースを割いているため弱体化中。 ※テラカオス・ディーヴァの魂はどこかでいずれ実体化する模様。 ※それを召喚された死者が追跡中、召喚された死者は道具扱いの為アナウンスされない。 ※召喚された死者は誰かは不明。
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塩野七生「ローマ人の物語11 終わりの始まり」(2002) [429] Client error `POST https //webservices.amazon.co.jp/paapi5/getitems` resulted in a `429 Too Many Requests` response { __type com.amazon.paapi5#TooManyRequestsException , Errors [{ Code TooManyRequests , Message The request was de (truncated...) ローマ人の物語 (30) 終わりの始まり(中) (新潮文庫) ローマ人の物語 (31) 終わりの始まり(下) (新潮文庫) 評価 ★★★☆ ひとこと ローマ帝国の衰退はいつから始まったのか? それは五賢帝と呼ばれる「アントニウス・ピウス」の無策がきっかけになってしまったのではないか、というアプローチ。 分類 歴史小説 長編 目次 第一部 皇帝マルクス・アウレリウス はじめに 育った時代 生家 子育て 少年時代 成人式 帝王教育 ローマ人のフィロゾフィア ローマ帝国の安全保障史 次期皇帝マルクス ローマ人の一日 師・フロント 結婚 ある疑問 皇帝マルクス・アウレリウス 二人の皇帝 皇帝ルキウス 飢饉・洪水 東方の戦雲 パルティア戦役 皇帝出陣 反攻開始 哲人皇帝の政治 ペスト キリスト教徒 ゲルマニア戦役 ルキウスの死 戦役開始 「防衛線破らる!」 ローマ人と蛮族 時代の変化 「マルクス・アウレリウス円柱」 ドナウ河戦線 蛮族のドミノ現象 謀叛 将軍カシウス 後始末 世襲確立 「第二次ゲルマニア戦役」 死 第二部 コモドゥス 映画と歴史 戦役終結 「六十年の平和」 人間コモドゥス 姉・ルチッラ 陰謀 初めの五年間 側近政治 「ローマのヘラクレス」 暗殺 第三部 内乱の時代 軍団の“たたきあげ” 皇帝ぺルティナクス 帝位争奪戦のはじまり ローマ進軍 首都で ライヴァル・アルビヌス もう一人の“たたきあげ” イッソスの平原 第四部 軍人皇帝 思わぬ結果 東征、そしてその結果 故郷に錦 ブリタニア 死 時期 AD161(マルクス・アウレリウス即位)-211(セプティミウス・セヴェルス死) 主要登場人物 アントニウス・ピウス マルクス・アウレリウス帝(在位161-180, 病死) フロント ルキウス・アウレリウス スタティウス・プリスクス ポンペイアヌス ヴァレリウス・マクシミアヌス アヴィディウス・カシウス コモドゥス帝(在位180-192, 病死) セクストゥス・ディジディウス・ペレンニス プブリウス・ヘルヴィウス・ペルティナクス レトー ディディウス・ユリアヌス セプティミウス・セヴェルス帝(在位193-211, 病死) クロディウス・アルビヌス ペシェンニウス・ニゲル 気になる表現 もしかしたら人類の歴史は、悪意とも言える冷徹さで実行した場合の成功例と、 善意あふれる動機ではじめられたことの失敗例で、おおかた埋っているといってもよいのかもしれない。 善意が有効であるのは、即座に効果の表われる、例えば慈善、のようなことに限るのではないか。(下 p108) メモ マルクス・アウレリウスの執政と苦難弟を共同皇帝 ききん・洪水 パルティア軍のアルメニア侵攻 パルティア戦役での人選ミス、属州・軍事経験のない皇帝 ローマ市民権所有者の出生届の義務づけ 地方議員志願者減少に歯止めをかける法律制定 ペスト キリスト教徒の市民の義務の不参加 ゲルマニア戦役:リメス破られる 蛮族対策 謀叛 息子コモドゥスを後継者に指名:内乱を防ぐため コモドゥスの執政ゲルマニア戦役の早期終了:先帝の意向に反し、早期に講和 近衛長官をはじめとする粛清 解放奴隷による側近政治 内乱期の皇帝たちペルティナクス:登位の功労者レトーに報いず、反乱を起こされて殺害される ユリアヌス:支持者は近衛軍団。早くに支持を失い、最初に殺害される。 ニゲル:カッパドキアをはじめとする8個軍団が支持。セヴェルスに敗れ戦死。 アルビヌス:ブリタニアの3個軍団およびライン河防衛線担当の3個軍団が支持。一旦セヴェルスと同盟をするも、最終的にセヴェルスに敗れ自死。 セヴェルス:ドナウ河防衛線担当12個軍団が支援。 セヴェルスの執政軍団兵の待遇改善→ローマ社会での軍事関係者の隔離につながった パルティア戦役の決行・勝利→パルティアの弱体化・滅亡を早めた 息子カラカラとゲタの不仲 参考 映画「グラディエーター」 映画「ローマ帝国の滅亡」 本書を引用している文献 塩野七生「ローマ人への20の質問」
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スプラッシュ・もえるこおり・kotokoDS・山本山・中村・かける それは一瞬の出来事だった。 ――誰も言葉を発することができず、目の前の光景をただ呆然として見つめていた。 気えぇぇの首は部屋の左隅まで転がっていったかと思いきや、その顔をこちら側に向けた。 唇とまぶたがぴくぴくと不自然に動いたあと、顔の筋肉が弛緩し瞳がうつろに天井を仰いだ。 その瞳と視線を交わしてしまった不幸な人間もいた――kotokoDSだ。 「ぅ……ぉっ、ぉえええ~!」 彼は床に吐しゃ物をぶちまけた。既に濃厚な臭いを放つ血の水たまりに混ざり、なんとも正視しがたいものになる。 『私の前でそんなものを見せるなよ?』 俯いた状態の彼はその声を聞いても何が起こったのか、理解できなかった。が、漸う顔をあげるとさらに恐ろしい光景が待っていた。 ――かけるは例のリモコンをkotokoDSに向けていた。 「ひっ!う……ううぁ……」 いたぶるかのようにして指をゆっくりとスイッチに向かわせる。さっきまで周りにいた人は、まるで蜘蛛の子を散らすかのようにして彼から離れていく。 『まぁ、早々に参加者を減らすわけにもいきませんので』 と、寸でのところでかけるはリモコンを懐に戻した。 大勢が胸をなでおろしたが、kotokoDSだけは体を縮こまらせ、まだ何かに脅えているかのように言葉にもならない呟きを漏らしていた。 ――人が死んだ…… 目はそらしていたつもりだったが、脇目ではしっかりと見ていた。 スプラッシュは今になって心から後悔した。頭の中では繰り返し――あの凄惨な死の瞬間が再生されている。綺麗な形などではない死。 ――意味が……分からない……! 彼はそっと首に手を添えた。この小さな、何の変哲もない金属に、明らかに価値の釣り合わないであろう自らの命を掌握されているというのだ。不快極まりないがそれ以上に、純粋な恐怖が心の底から湧いてくる。 ふと隣の氷の顔を見た。が、俯いていて表情は窺えない。かけるべき言葉を混乱する頭で考えたが―― 『さて、そろそろルールの説明に入りますか』 かけるの言葉で思考は中断された。それにしても、まるで何事も起こっていなかったと言うかのような口ぶりだ。 『頼みますよ』 かけるは待機していた男達に目配りした。 「我々はかける様親衛隊だ!」「かける様万歳!」「万歳!」 男達はそう言った後にかけるの方を向き敬礼した。直後、モニターが消えかけるの姿も参加者の前から消えた。 「これからルールを説明する!」 親衛隊の一人が高々と言った。 皆、親衛隊の持つ銃を恐れてか小声すらあげようとしない。 「お前達はこれから、参加者が最後の一人になるまで殺し合いをしてもらう。 全員にかける様からありがたい支給品が渡される。三日分の食糧と水・地図・参加者名簿。 そして一人一人ランダムで内容の違う武器だ」 パッとモニターの画面に『武器』として配られるのであろうナイフや銃の姿が映し出された。 中には明らかに武器としては機能しない――所謂『ハズレ』も見受けられた。 その次に島(殺し合いの舞台だ)の地図が映し出される。 皆、食い入るように画面を見ている。 「このバトル・ナオトヤルには基本的に違法行為は存在しない。 が、禁止エリアに入る。またはかける様に逆らう行動を取った者は――違法行為を行ったとして首輪を爆破する!」 スプラッシュを含めた参加者の殆どがその言葉に息を呑んだ。 「朝の六時に放送を入れる。死亡者の発表と禁止エリアの追加だ。 補足や追加ルールを知らせることもあるから、よく聞いておくんだな」 その時、モニターに再びかけるの姿が映った。敬礼する親衛隊。 『伝え忘れていました。新ルールがあります――参加者の中から奴隷を集めてください』 「奴隷志願者はここに来い!」 困惑したように顔を合わせあう参加者。その中から手が挙がった。 「奴隷とはなんですか?」 山本山だ。その顔は参加者の中では比較的落ち着き払っていた。 『奴隷には、一般の参加者よりも強力な武器を支給されます』 強力な武器――先程の説明でいう銃とか、そういうものだろうか? 『光栄なことだろう……ところで』 かけるが山本山の方へ顔を少し動かした。親衛隊もそれに続く。 『――お前は奴隷志願者か?』 ボイスチェンジャーで変換されているのに、かけるの声には妙に期待がこめられているのが分かった。 彼が答えを返すのには、十秒もかからなかった。 「――はい」 憮然とした顔つきで彼は言い放った。一瞬のうちに、参加者の視線が槍となり彼を刺す―― 絶句するスプラッシュ。こいつは――やる気だ! 『静かにしなさい』 かけるは手を叩くが、部屋はついさっきと同じように騒ぎ声で満たされていた。 騒然とした中、かけるに目配りされた親衛隊の一人が『何か』を天井に向けた。 ――ドォン! 「静かにしろ!次は当てるぞ」 男の手には煙の昇る銃が握られていた。僅かな声の余韻を残し、誰もが口を閉ざした。 「――山本山、お前を名誉ある奴隷に指定する!」 恐怖や侮蔑のこもった視線をはらうように山本山は彼らの元に向かい、数人の親衛隊に連れられて部屋を出ていった。 「他にも奴隷志願者はいないか?」 その言葉につられ、何人かの参加者が親衛隊に連れられていった。 『お前達もこのように、積極的に殺し合う意思を持つように』 「さて、これからアイウエオ順に名前を呼ぶので、呼ばれた者はデイパックを取り施設を出ろ!」 親衛隊がデイパックの乗せられたカートを運んできた。その時―― 『……待ちなさい』 かけるが口を開いた。親衛隊は慌ててそちらを向く。 『さっき、かける出て来いってこのかける様に暴言を吐いたのは……』 スプラッシュの後ろに座っていた男が大げさに体を震わせた。 『お前だったな?中村』 「そ――それがどうした……」 かけるは再び懐へと手を伸ばした。みるみるうちに青ざめていく中村。 「やっ、やめろよ!やめてくれよ――!」 中村は涙声でひたすら懇願を続けた。ぴたりと手をとめるかける。 『私は寛大だ。奴隷になればこの件については許してやろう』 「そんなこと言われても――やめて――」 引き攣った表情の中村の元へ親衛隊が歩いてくる。 「中村、貴様を奴隷に指定する!」 「い、いやだ!」 「黙れ!貴様に拒否権なんて無いぞ」 「いやだ――助けて、助けて!」 親衛隊は嫌がる中村の手を乱暴に掴むと他の奴隷たち同様、別室へ連れていってしまった。 何人かの参加者は中村の方を呆然と見ていたが、諦めたように目を逸らした。 『奴隷が増えて結構結構。さて、予定より遅れてしまったが――殺し合いを始める』 ――かくして、福田住民総勢の戦いが始まった。
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――ここは…… メシスが目を覚ましたのは、バスの中ではなく薄暗い部屋の中だった。 朦朧(もうろう)とした意識の中、何が起こったのか理解しようとする。 ――バスでいつの間にか寝て…そっから何があったんだ? この部屋に来るまでの記憶がないことに、メシスは気づいた。 記憶がないというよりは――存在しないと言ったほうが正しいか。 ふと周りを見回すと、たくさんの人がいた。皆、オフ会の参加者のようだ。 「メシテュイ?」 ふいにどん、と背中を叩かれる。 驚いて振り向くとミルタ達がいた。 「なんだお前達か……」 「なぁメシス、何が起きたんだw」 我に分かるはずないだろ、と肩をすかす。 「バスで寝てから、ここに来るまで……思い出せないというか、分からないんだ」 「私も同じ」riafに続きシャインが言う。 「まぁ、我もそんな感じだな」 「メシテュイはラティアスでシコってたんじゃないの?」 「ありえるなw」 「ば、馬鹿…!それは我をネタにしている動住民の言葉だ!」 マジになるメシスを冷ややかな目で見ながら、さっきまで黙っていた動が口を開いた。 「どうすんの?ここに一生いる気?」 「……とりあえず出口探せばいいんじゃない?」 シャインの提案に賛同しようとしたメシスだが 「ダメ。扉には鍵かかってるし、窓も全部溶接されてる……」 riafがため息をついた。 「えぇ?いつの間に調べたのかよw」 「みんなが起きる前にさ」 僕は眠りが浅いから、と付け足す。 「今は、誰かが来るのを待つしかないよ」 それきり誰も喋らなかった。納得したのか、それとも動揺と不安で言葉を失ったのか。 メシスには後者に思えた。 「いや、力づくで破ろうとしてる奴がいるぞ」 なめぇが扉を指差した。気性の荒そうな男――気えぇぇがドアに何度も蹴りを入れ始めた。 「手伝ってやれよ、なめぇ」 「力仕事は嫌いなもんでw」 「待っていても仕方ないか。手伝うよ」 riafがゆっくりと立ち上がる。彼は空手を会得しているから、ドアくらいならなんとかなりそうだ。 「……待って」 シャインがそれを制止した。 「ねぇ、足音が……聞こえない?」 「どういうこと?」 「誰か、来るんじゃない?」 シャインのいう『足音』は次第に大きくなり始め、メシスにもハッキリ聞き取れるようになった。 足音に気づいたのは自分達だけではないようだ。 ドアが開き、黒いスーツを着た男が四人入ってきた。 反応はない。大半の人間が状況も分からず、困惑した表情で男達を見ている。 「おい、なんなんだよ!」 気えぇぇが声を荒げる。 「答えろよ!」 男達は相手にもしない。最初に部屋に入ってきた男が壇上に立った。 「初めまして、Maruです。殆どの人は私の名前を知ってるんじゃないかな」 Maruはニカっと笑った。 「……僕達、今どこにいるんですか?どういう状況なんですか?」 riafが尋ねた。 「簡単に説明します」 運ばれてきたホワイトボードにMaruは向かう。 「今、皆さんがいるのは本土から数百キロ離れた無人島です」 その言葉にざわめきが起こった。 「通称゛箱庭諸島゛。戦前は極秘で兵器製造が行われ、今は我々が実験を行うのに使っている……。 君達はこの島で行う実験の被験者になってもらいます」 彼はホワイトボードに『第一回・福田住民戦闘実験計画』と描いた。 「……話が読めません」 riafは怪訝な顔をした。 「戦闘実験。つまり……」 「なんのつもりだよ、お前ら!」 気えぇぇの罵声が言葉を遮った。 「いいからここから出して返せよ!訳わかんねーんだよ!」 それに対しMaruは露骨に舌打ちすると、懐に手を伸ばした。 「……え、な、なんだよ!」 その手には銃が握られていた。 驚く間もなく、一切の躊躇(ちゅうちょ)も見せずに引き金が絞られる。 ドンッ 銃声が響き、気えぇぇがうつぶせに倒れこむ。 火薬と鮮血のきつい匂い。さらにもう一発。 今度は頭をぶち抜かれた。 一瞬の沈黙が訪れた後、悲鳴と嗚咽が漏れた 「……これから皆さんには殺し合いをしてもらいます」 死亡■気えぇぇ 恐怖で体が動かない。何の前触れもなしに、人が一瞬のうちに目の前で死んだのだから。 「ぅ……ぉっ、ぉえええ~!」 kotokoDSがゲロを吐く。まだ年端もいかない少年だ。 「はいはい。部屋を汚さないように……殺しますよ?」 Maruの銃を持つ手が動いた。 ひっとkotokoDSが縮こまり、それを見た隣の女性が彼をそっと抱き寄せた。 「時間もないし……ルールの説明に入りたいと思います」 別の男がずい、と前に出た。 「ルールを説明する。お前達は最後の一人になるまで殺し合いをしてもらう……」 殺し合い。先程の光景を思い返せば、その言葉も不思議と現実味を帯びてくる。 ……当然、受け入れられるわけがない。だが反論もできない。 逆らう意思など当に奪われている。 動を見る。横顔は長い髪で隠れて伺えないが、震えている。 「全員には三日分の食料と水、地図、それと武器をランダムに渡す」 ホワイトボードにナイフや銃器、爆弾といった武器の画像が映される。 「出発の際にこの首輪をお前達につける」 男は首輪を掲げた。 「この首輪には爆弾が内臓されている。島から逃げ出そうとしたり、禁止エリアに入ると爆発する……」 再びざわめきが起こった。 「早朝に放送を行う。禁止エリアと死亡者の発表、他補足や追加ルールを知らせることもある。 ルールはこんなところだが…」 男は、ドアのほうに視線を移した。 いつのまにか、全身黒ずくめの男がドアにもたれかかっていた。 「殺し合いを円滑に進めるために、特別参加者をこちらで用意した……leafだ」 leafがこちらを見る。氷のように冷たい、光のない目だ。一秒でも目を合わせていられなかった。 「アイウエオ順に名前を呼ぶ。前に出て荷物を受け取り、首輪を装着したら外に出ろ」 「……う、ううぁ……いやだ……」 kotokoDSだ。ふらふらと立ち上がると、そのままドアのほうへ向かっていった。 「いやだ……かえりたい……」 「帰る?」 Maruは意地悪く笑った。 「どうやって帰るんですか?」 「たすけて……かえりたい……ねえさん……」 「まぁ、そんなに言うなら帰してあげますよ……やれ」 leafに銃を投げ渡す。何の感情の変化も見せず、leafは銃を構えた。 銃口から煙が昇っている。 確かに撃たれたはずだ。なのに、全く痛みを感じない……何故? 「……なんで」 傍に倒れこんでいるのが、自分の姉だと気づくのに時間はかからなかった。 自分の身代わりになり、銃弾を受けたのだ。だから自分は助かった。姉は―― 「ねえ……さん」 かおりんが口を開いた。小さく、かすれた声だったが、確かにkotokoDSには聞こえた。 ――もう、弟を傷つけないで…… 「あ……あああ……うあぁ……」 絶望を彩るかのように、慟哭が響き渡った。 「あ――あああ……うぁああああああああああああ――!」 ひとしきり泣き喚いたあと、彼は、無表情で自分を見下ろすように立つleafを見た。 その目は、純粋とも言える殺意で濁り、貫くようにleafを捉えていた。 「殺してやる。絶対に、絶対に殺してやる……」 死亡■かおりん ゲームスタート
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それは、戦いに勝利した者の物語であった。 彼はあるべき未来とは少し違った道を行き、戦いに勝利し、そして知ってしまった。 絶対的な力を更なる高みへと到達させ、彼は知る。 次元を超えた先にある数多の世界。 天に散らばる星々よりも多数の、人間が織り成し支配する世界。 彼は戦った。彼は殺した。彼は救った。 悪である存在と戦い、殺しつくし、世界を救ってきた。 世界は、次元の先にある世界は意識が遠くなるほどに大量で、それでも彼は戦い続けた。 そんな彼を待っていたのは更なる深淵。 次元世界という終焉のない迷宮の果ての悲劇。 彼は知ってしまった。 世界の隣にある、極めて近く限り無く遠い世界の存在を。 彼は知ってしまった。 もしかしたら自分にも在ったかもしれない、敗北の世界を。 敗北の先にあったのは信じられない光景であった。 ただ敗北しただけなら彼にだって受け止められた。 だが敗北の先にあった光景に、彼は愕然とした。 数年、数十年、数百年、数千年……決して揺らぐことのなかった心が揺らいだ。 思えば感情らしき感情を覚えたのも、一世紀や二世紀の時の中ではありえなかった事だ。 極めて近く限り無く遠い世界を知った彼は、救済の中で思考を繰り返した。 湧き上がる数多の感情を、何処か客観的な中で見詰める。 彼は、自分が何を求めているのか分からなかった。 分からぬままに、また数千年の時を刻む。 悩みを抱えた数千年は、彼自身にも知らずの内に変化をもたらす。 気付けば彼は耳を傾けるようになっていた。 今までは何とも思っていなかった悪の言葉に、耳を立てる。 様々な言葉があった。 怒りに満ちた声、悲しみに満ちた声、中には同情の声すらもあった。 様々な言葉を聞き、それでも彼は答えを見出すことができなかった。 そして、また膨大な時間が流れる。 彼は決意した。 何も考えず、己の思うが儘に選択し、行動をしてみようと。 そうして、この物語は始まった。 次元を越えて集められた人々による殺し合い―――バトルロワイアルが、始まった。 ◇ ―――これから貴様達には殺し合いをしてもらう――― 気付けば其処に人々は集まっていた。 暗闇の中でぽつりと浮かんだ光点。 見渡す限りは全て黒。 人々が集まるそこだけが、ライトに照らされているかのように丸く光っていた。 ―――生き延びたくば、殺し合い、最後の一人となるまで生き残ることだ。ルールはない。ただ殺しあえ――― 人々の表情には一様に戸惑いがあった。 当然だろう。 気付けば訳も分からぬ場所にいて、何処から聞こえるかも分からぬ声から殺し合いを強要される。 理解不能を甚だしい。 ―――殺しあわぬというのも、また選択の一つだ。だが――― 疑問に、困惑に、憤怒に、人々が声を上げようとした瞬間であった。 言葉が途切れ、一瞬の輪廻が始まる。 集められた人々の首が切断された。 何の前兆もなく、さもそれがあるべくしてあった結果のように、首が飛ぶ。 避けられた者はいなかった。 人間の域を遥かに超越した猛者も、何の力も持たぬ一般人もただ平等に、死亡する。 ―――貴様達の命は俺の掌の上にある。そのことを忘れるな――― そして、切断された46の生首は、何の前兆もなく、さもそれがあるべくしてあった結果のように、治った。 誰もが誰も、一度確かに千切れ飛んだ筈の首が、何事もなかったかのように元に戻ったのだ。 死者はいない。だが、死の記憶だけは人々の中に刻まれた。 必死の楔が、全員の心に穿たれた。 ―――死にたくなければ、殺しあえ。人類が毎日繰り返している事を、ただ行えばいい。それだけだ――― 淡々とした言葉に、何か言うものはいなかった。 人々は無言で、声を聞いていた。 ―――最後にもう一つ。この殺し合いで生き延びた者には、何でも一つだけ願いを叶える権利を与える――― 最後の言葉に、ほんの少しだけ場がざわめく。 ほんの少し息を吸い込むような、声にもならぬざわめきだ。 ―――殺しあえ。死にたくなければ、願いを叶えたくば、殺しあえ――― そうして言葉が途切れ、闇にあった唯一の光が消えていき、世界が完全な闇に染まる。 闇が晴れた時、人々は殺し合いの場へと移行しているだろう。 一人の男のエゴから開催されたバトルロワイアル。 このバトルロワイアルを通して、人々は、そして主催者たる彼自身も、それぞれの信念を追及する事となる。 そう、信念を追及する物語が始まる。 【―――信念追及バトルロワイアル・開催】
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【扉を開きますか?】 YES/NO
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因果応報―終わりの始まり―(中編) ◆KKid85tGwY 「だから翠星石は退がってろって!」 「イヤです!!」 確かに翠星石はその能力からして接近戦より、距離を置いての戦闘の方が得意としている。 しかし翠星石の能力は植物にしろ、薔薇の花弁にしろ、黒羽にしろ、 そのほとんどが手元から放出して、敵に向かって行くタイプの攻撃なのだ。 従って敵と距離を取るほど、隙が大きくなり対処もされ易くなる。 何より翠星石は先刻から龍騎とナイトの戦いを遠巻きから眺めているだけの状態が続いていたのだ。 翠星石にとってこれほど焦燥に駆られる状態は無かった。 翠星石は薔薇の花弁と黒羽を今度は重ねるように飛ばす。 植物はシャドービームで燃やされて通用しなかったが、花弁も羽も分散した物の群体。 個々を燃やされてもほとんど影響は無いし、一挙に燃やされると言う心配も無い。 問題は正に一撃一撃が軽いこと。 至近距離から収束して撃った薔薇の花弁と黒羽は、正確にシャドームーンの頭部へ命中。 しかし、やはりシャドームーンに傷を付けることができない。 それでも打ち付けられ続ける花弁と羽。 シャドームーンを傷付けることは叶わず、只纏わり付いていく。 その羽から突如として蒼い炎が上がった。 水銀燈の持っていた発火能力で、翠星石が上げた物である。 羽だけでなく花弁にも引火した炎は、シャドームーンの頭部全体を覆っていく。 「いーひっひっひ! いい様ですね、銀色オバケ」 頭部を炎に巻かれた状態では、見ることも聞くこともできない。 そう確信した翠星石は、 高笑いを上げながら更に接近していく。 シャドームーンの足下へと。 そしてシャドームーンの足下へ如雨露を伸ばした。 これでシャドームーンの直下から植物を育てれば、その動きまでも封じることができる。 甲高い音を上げて宙を舞う如雨露。 如雨露はシャドームーンによって蹴り飛ばされた。 「なっ!!? お前見えてないんじゃ……ぐっ!!」 見えないはずのシャドームーンが、翠星石の頭を鷲掴みにする。 シャドームーンのマイティアイは広視界と透視能力を持っている。 炎に巻かれても翠星石を見失うことは無かった。 シャドームーンの握力によって軋むような音と呻き声のような悲鳴を上げる翠星石。 「は、放せ!! 放しやがれですっ!! お前だけは、お前だけは捨て置けねーんですぅ……」 翠星石の怒り、と言うより悲痛さの篭った叫び。 龍騎の眼にも、C.C.の眼にも、上田の眼にも、 シャドームーンへ向ける翠星石の感情は尋常の物では無いことは明白だった。 姉妹を殺された怒り、と言うだけに尽きないそれは誰の眼にも異常に映っていた。 「翠星石!!!」 しかし龍騎にとっては翠星石が直接危機に見舞われている事実の方が重要なことだ。 起き上がり様にシャドームーンへ切り掛かる龍騎。 その龍騎の視界の中で翠星石が、シャドームーンを覆い隠すほど急激に巨大化。 シャドームーンが翠星石を投げつけて来たのだ。 それに気付いた龍騎は、慌てて眼前で翠星石を受け止める。 翠星石は苦しそうに呻いているが、無事らしいことを確認する。 その龍騎の腹に鋭く、それでいて重い衝撃が襲う。 翠星石を退かして自分の腹を見ると、シャドームーンの蹴りが入っていた。 今度は龍騎がくぐもった声を漏らして膝を折る。 蹲った龍騎の後頭部を見下ろすシャドームーンは、サタンサーベルを振り上げる。 振り下ろされたサタンサーベルが大きく鉄火を鳴らした。 横薙ぎに打ち込まれて来たナイトのダークブレードを受け止めたためだ。 4000APの斬撃は、シャドームーンが片手で持ったサタンサーベルに阻まれる。 太刀合わせになるダークブレードとサタンサーベル。 刃こぼれを起こすことも無く火花を散らす二本の剣は、そのまま鍔迫り合いに移行。 最初は拮抗していた物の、シャドームーンがサタンサーベルを両手で持ち直したことで、 ナイトが押されて行った。 不意にナイトが体捌きの要領で、ダークブレードを外す。 サタンサーベルで押して来ていたシャドームーンを往なすためだ。 目論見通り、当たり所を失ったサタンサーベルが流れて行く。 そして再び横薙ぎに変化したダークブレードでシャドームーンに切り掛かる。 ダークブレードはシャドームーンから急速に離脱。 握っていたナイトが後ろへ吹っ飛んだのだ。 シャドームーンの蹴りによって。 かつて仮面ライダーブラックがライダーキックを最大の決め技としたように、 世紀王は格闘戦において、蹴り技こそ最も威力を発揮する。 ましてシャドームーンはレッグトリガーを装備している。 溜めもエネルギーチャージも無い単純な回し蹴りですら、その威力は破格。 「合わせろヴァン!!」 既に装甲の粒子化が始まった龍騎の声が響く。 アドベントカードをかざす龍騎を見て、ナイトが頷く。 同時に龍騎と、既に手馴れた様子となったナイトが、アドベントカードをベントイン。 『『SHOOT VENT』』 龍騎のドラグバイザーツバイから放たれたレーザーが、シャドームーンの背後から照準を合わせる。 ナイトのダークバイザーツバイの弓が展開してボウガンを形成。周囲から光エネルギーを吸収。 ドラグランザーがレーザーの射線に沿ってシャドームーンへ向かって飛び、うねりを上げながら超高熱火炎弾を連続発射。 ダークバイザーツバイで極限まで収束された光エネルギーは、矢を形成して連続発射される。 4000APを誇る連続超高熱火炎弾『メテオバレット』の標的はシャドームーンの背中。 3000APを誇る連続光弾『ダークアロー』の標的はシャドームーンの正面。 同時に着弾。 埒外の高密度エネルギー体が衝突事故を起こし、 大地を震わすほどの轟音を響かせ、凄まじい爆風と炎熱を撒き散らす。 しかしその場に居る誰も、爆心地に居たシャドームーンを倒せたとは思っていない。 龍騎とナイトが空を見上げる。 視線の先には天高く跳躍していたシャドームーンが居た。 その跳躍力を活かし、爆発を回避していた。 そしてそこまでは予想通り。 空高くを舞うシャドームーンは敵の次の手を探るため、龍騎とナイトの動きをマイティアイで解析する。 龍騎。には動きが見られない。 しかし龍騎の身体から放物線状に何かが落ちていた。 よく見ると龍騎の身体から、では無い。 龍騎がその手に未だ抱いていた翠星石。 その手に持った如雨露から水が放物線を描いて地面に落ちていた。 そこから植物が急速に成長をし出す。 「フッ、同じ手を何度も」 翠星石の育てた植物は、既に何度も破っている攻撃手段。 例え空中であろうと幾らでも対処できる―― 『NASTY VENT』 ――そう考えていたシャドームーンの耳に、既に聞きなれた電子音声が届いた。 ナイトを見ればカードを装填の終えているらしい。 そしてビルの窓ガラスから、青い翼を広げた怪鳥が姿を現す。 仮面ライダーナイトサバイブの契約モンスター・ダークレイダー。 (これは、公園であの青いライダーが使った……!!?) 突如、シャドームーンの耳に異常な金切り音を上げ、視界が歪む。 突発的な異常事態。 原因は知っている。 ダークレイダーが放つ超音波が、シャドームーンに影響を与えているのだ。 かつて公園の戦いでナイトが使っていたナスティベント、超音波攻撃『ソニックブレイカー』。 公園の戦いでは耐えることができた。 しかしナイトがサバイブとなった今、ソニックブレイカーの威力は倍化。 改造を受けたシャドームーンの感覚器官と言えど、耐え切ることはできなかった。 景色が酩酊し、意識が集中できない。 酩酊する景色が、緑色に塗り潰される。 そして更に衝撃が走り、緑色は茶色に塗り潰された。 「……ざ、ざまーみやがれですぅ…………」 龍騎の腕の中で、ようやく一心地ついた翠星石は呟く。 シャドームーンは空中を飛行ではなく跳躍をしている。 従って空中で超音波攻撃を受ければ、翠星石が育てた植物に対して対処のしようも無い。 蹴り飛ばされていた如雨露は、傍らに駆けつけていた上田とC.C.が拾っていた。 そして成長させた植物を曲げて、捕捉したままシャドームーンを地面に叩き付ける。 後を龍騎に任せるために。 「……後は頼んだですから、しっかり決めやがれですよ真っ赤っか人間…………」 「ああ、良くやったな翠星石。後はここで見ていてくれ。俺が、いや……」 龍騎は翠星石を上田とC.C.に預ける。 そしてアドベントカードをベントインした。 「……俺たちがシャドームーンを倒す所を」 切り札中の切り札となるアドベントカードを。 『FINAL VENT』 龍騎に隣り合うように降りて来たドラグランザーが、その姿を龍の物から二輪の単車の物に変形させる。 バイクモードとなったドラグランザーへ龍騎が跨り、勢い良くアクセルを回す。 急発進するドラグランザー。 目標は、シャドームーン。繰り出す攻撃は、 仮面ライダー龍騎サバイブ・ファイナルベント<ドラゴンファイヤーストーム> シャドームーンは超音波と植物、二重の戒めによって身動きが取れない。 勢い良く走るドラグランザーの頭=前輪が持ち上がりウィリー走行に移行。 ドラグランザーの頭から超高熱火炎弾の連続発射。 超高熱火炎弾の連発でダメージを与え、ドラグランザーの車体で撥ねて止めを刺す。 それが9000APの攻撃力を誇る仮面ライダー龍騎サバイブ最大最強の攻撃――ドラゴンファイヤーストーム。 7000°Cの火炎弾が植物もシャドームーンも容赦なく焼いていく。 舞い上がる炎熱は植物を瞬時に焼き尽くし、尚も発散する熱はダークレイダーをも寄せ付けない。 炎熱は超音波と植物と言う二重の戒め、両方からシャドームーンを解き放った。 しかしもう遅い。と龍騎は確信している。 既に超高熱火炎弾の連発を受けたシャドームーンでは、大きく回避することは不可能。 多少身をかわそうとしても、龍騎の技術ならばドラグランザーで追尾して当てることができる。 そして防御に回っても、9000APを誇るドラゴンファイヤーストームの威力は防ぎ切れない。 しかし戒めから解き放たれたシャドームーンの行動は回避の物ではない。 起き上がり様その場で飛び上がり、空中で旋回。 そして両足を揃え、ドラグランザーへ向けて蹴りを放った。 このタイミングで回避でも防御でもなく迎撃を選択して実行できる。 やはりシャドームーンの戦闘センス、何より揺ぎ無き闘志は尋常ではない。 しかも両足からは、キングストーンのエネルギーが余りの高密度ゆえ、強烈な光となって放たれている。 足にエネルギーを収束させて放つ技は、龍騎は覚えのある物だった あの技はまるで―――― 「ライダーキック!!?」 「シャドーキック!!!」 それはライダーキックではなくそれと対を為すシャドームーンの必殺技。 シャドームーン最大最強の攻撃――シャドーキック。 ドラゴンファイヤーストームとシャドーキックが正面衝突。 必殺技vs必殺技。 最大最強vs最大最強。 仮面ライダー龍騎と数多のモンスターを捕食して力を得たドラグランザーの全エネルギーを一転集中させた突貫攻撃を、 シャドームーンのキングストーンと二つのレッグトリガーの超振動を合わせたエネルギーを込めたキックで迎え撃つ。 派生した衝撃が大気を、大地を震わせる。 更に衝撃は近場のビルの窓ガラスを一斉に割り、 遠巻きに避難していた上田やC.C.や翠星石にまで届いた。 龍騎とシャドームーンはやがて爆発するような光に包まれた。 やがて衝撃と轟音が止み、静寂が訪れる。 遅れたタイミングで聞こえた、民家の倒壊する音が間抜けに響く。 衝突の結果は―――― 「――――ぐはっ!」 翠星石たちの前で、空中から龍騎が墜落してくる。 そして龍騎の姿が鏡のごとくに割れ、真司が現れる。 変身のタイムリミットを過ぎたのだ。 真司は呻くように血を吐く。 明らかにダメージが大きい。 むしろ、必殺技同士で相殺し合ったために危うく命を拾った。そんな風情だった。 「真司!! しっかりするですぅ!!!」 翠星石が真司の下に飛び寄る。 真司は立ち上がることもできないようだが、どうやらの命には別状が無いらしい。 その瞬間、倒壊した民家から崩れるような音がする。 音のする方を見ると、銀色の影が立ち上がった。 「ぶ、無事だったんですか……あの銀色オバケ」 必殺技の打ち合いを制したのはシャドームーン。 ダメージはあるようだが、自力で立ち上がる様子から、 真司よりダメージが少ないことは明らかであった。 しかしまだ勝負は終わっていない。 「ま、まだこれからだ……」 切り札中の切り札は、もう一枚存在するのだから。 『FINAL VENT』 シャドームーンに照射される青い光線。 途端、シャドームーンの動きが一切停止する。 光線の発射元には、青いバイクに跨ったナイトが居た。 いかにシャドームーンでも、ドラゴンファイヤーストームを迎撃すれば、相応の消耗は免れない。 そうなれば動きも鈍るはずだと予想できた。 そしてその隙を突いてナイトが使用したのが、ファイナルベントのアドベントカード。 ナイトが跨っているのは、バイクモードに変形したダークレイダー。 先ほどシャドームーンの動きを止めたのは、ダークレイダーの機首から発射した拘束ビーム。 それによって敵を拘束して、ダークレイダーで突貫する。 その威力と、何より回避不能性ゆえの正に必殺技。 仮面ライダーナイトサバイブ・ファイナルベント<疾風断> 指一本動かすことができないシャドームーンへ向かって、ダークレイダーを走らせるナイト。 ナイトから伸びたマントがダークレイダーを覆い、全体を一発の弾丸へと変形させる。 8000APの攻撃力を誇る、仮面ライダーナイトサバイブ最大最強の弾丸へと。 その弾丸は、今度こそ回避も防御も迎撃も不可能。 龍騎とナイトの誤算は、シャドームーンにも切り札が存在したこと。 世界の条理を超え、不可能をも可能にする切り札。 世界を支配する王の輝石・キングストーン。 シャドーチャージャーから光が放たれる。 自身を脅かす如何なる特殊能力も無効化するキングストーンの光が。 「シャドーフラッシュ!!」 あらゆる動きを封じられたはずのシャドームーンの声が聞こえる。 同時にシャドームーンが跳躍。ダークレイダーの上を飛び越える。 そして着地と同時にダークレイダーへ向けてシャドービームを発射。 着弾と共に、爆発に包まれるダークレイダー。 爆煙が晴れると、そこには倒れ伏すナイトが居た。 それでも重そうな身体を起こすナイトだが、その装甲は粒子となって空中に溶け始める。 「……フッ、褒めておいてやる。それに値する強さだったぞ。人間にしてはな。 せいぜい誇るが良い。次期創世王に全力を出させて敗北したことを…………あの世でな」 シャドームーンの言葉に反論する者は居なかった。 ファイナルベントは二つとも破られ、 龍騎の変身は解け、 ナイトの変身時間は後僅か、 勝敗が決まったことは誰の眼にも明らかだった。 「ばんなそかな!」 「……どうやら、勝負がついたらしいな」 ナイトのファイナルベントが破られたのを見て上田は驚愕を、C.C.は諦念を込めた声を漏らした。 上田は震えながら、おたおたと取り乱す。 「…………い、今からでも逃げた方が良いだろうか?」 「逃げてどうする? お前は首輪を嵌めているんだ。ここで逃げても結果は同じだ」 やはり落ち着いた調子で答えるC.C.。 C.C.個人にとっては、ある意味何の問題も無い状況だとは言える。 シャドームーンやV.V.に意趣返しができなかったことは残念だが、それも些細なことだ。 彼女の本来の目的を考えれば。 「そ、そうか!! 君は首輪を外しているんだったな……………………ずるいぞ一人だけ!」 「翠星石と志々雄の三人で、だ。それに私は逃げるつもりは無い」 「WHY!? 何故だ?」 「お前のような臆病な役立たずと一緒にされたくないからな」 C.C.は既に首輪を外しているので、禁止エリアに逃げることも可能だ。 しかしC.C.はこの場でシャドームーンに戦いを挑むことを選択する。 無論、勝算は無い。おそらく傷一つ付けることは叶わないだろう。 しかしC.C.が殺される心配も無い。 C.C.は不死のコード所有者なのだから。 「C.C.……………………君も震えてるぞ」 C.C.は上田の視線の先、自分の手元を見る。 三節棍を握っていたそれは、確かに震えていた。 寒さではない。この状況で武者震いを起こすほど物好きでもない。 恐怖による物としか考えられなかった。 しかし何に恐怖しているのかが判らない。 不死者であるC.C.には、シャドームーンですら恐れる所以は無いはずだ。 「ふん、偉そうなことを言っておいて自分も怖がってるんじゃないか」 「怖がる? 死なない者が何を恐れられると言うんだ……」 まるで自分に言い聞かせるようなC.C.の言葉。 実際に上田へ返答をしているわけではない。 判るはずもないのだ。そうでない者に、不老不死のまま生き続ける重さなど。 憎む人も、優しくしてくれた人も、全て時の流れの中に消えていき、 そもそも自分が人間だったのかすら判らなくなり、 果てることの無い時の流れの中で、遂に自分の死を望むようになった者の想いなど。 「何だそれは? 君は不老不死にでもなったと言うのか?」 「なりたくもなかったがな……」 「馬鹿馬鹿しい! 言うに事欠いて不老不死だと? そんな物は物理的考えても、生物学的に考えても……」 上田はこの期に及んでも不老不死が受け入れられないのか、長々とそれが何故不可能であるかの講釈を垂れている。 C.C.はそれを聞き流しながら、自分の思索に耽っていた。 しかし上田の次の台詞を聞き流すことはできなかった。 「……第一、詳細名簿が有ると言うことは君が不死身だということをV.V.も知っているはずじゃないか。 そんな人間を、何故殺し合いに参加させる?」 全ての思索が吹き飛ぶほどの衝撃がC.C.を襲う。 不死者が殺し合いに参加させられている。 それは疑問を持って当然の状況だった。 それでもC.C.は今この時、上田に指摘されるまで疑問にすら思わなかった。 しかし振り返って考えて見れば、V.V.はC.C.の不死を良く知っている者である。 本当に殺し合いをさせる気で参加させているのなら、C.C.に対して何らかの対策をしていると考えて当然。 そして回復力が落ちているなど、実際に自分の不死に対して何らかの対策が為されている兆候も見られた。 それなのに“死ぬことができる”という可能性に、今の今まで気付きもしなかった。 自らの不死は余りに当然のことで、 自らの死を諦めることが余りに当然のことであったゆえに。 あるいはその可能性に、本当は気付いていたのかもしれない。 ならばシャドームーンとの戦いに臨むのにも、大袈裟な決意が必要だった説明が付く。 そしてこの身体の震えにも。 無意識や本能とでも呼ぶべき、とにかく顕在意識に上がらない領域では死の可能性に気付いたとすれば。 もし仮に死ぬことができるとすれば、それは自分の悲願を達成することができるということ。 V.V.との経緯も、ルルーシュとの経緯も、全て自分が死ぬための物だった。 それほど焦がれた死に、ようやく到達することができる。 例え身体が恐怖に震えようが、死を得られる喜びが勝る。 そのはずなのだ。 C.C.は震える身体でゆっくりとシャドームーンへ向けて歩き始めた。 ◇ ファイナルベントが破られ、満身創痍となったナイト。 元々、石田散薬で治療したとはいえ、負傷の多い身だった。 変身状態は未だに維持しているとはいえ、限界は近い。 そして傍らで共に戦っていた龍騎も居ない。 ただ一人でシャドームーンと対峙するナイトは、それでも真っ向から立ち向かって行く。 龍騎と共に戦っていた時はアドベントカードや連携を駆使したが、今はただ真っ向から、 一点の曇りもなく、勝利のために。 勇者なのか、それとも愚者なのかすら定かでは無い。 ただそれがナイト――ヴァンと言う男の本来の在り方だった。 ダークバイザーツバイでシャドームーンに切り掛かるナイト。 明らかに動きが重くなっている。 ダークバイザーツバイをサタンサーベルで弾き飛ばすシャドームーン。 ナイトは身体ごと弾き飛ばされる。 「最早勝算を失ったことも判らないとは。どこまでも愚劣な人間だな」 「はぁはぁ……そんな台詞は勝ってから言え!! バカ王が!!」 「……その上、世紀王の名を愚弄したのだ。後悔させねばな」 「じゃあ、ただのバカで良いな!! バーカ! バーカ!」 やはりただの愚者かもしれない。 そう思わせるほど幼稚な挑発をするナイト。 今度はシャドームーンがサタンサーベルで切り掛かる。 ダークバイザーツバイで受けるナイト。 鍔迫り合い、にすら成らず、一合で弾き飛ばされるダークバイザーツバイ。 無防備となったナイトへ降りるサタンサーベル。 それを止めたのは、シャドームーンの腕に絡みついた薔薇の花弁。 薔薇の花弁は一繋ぎの鞭のごとく、翠星石の腕から伸びていた。 翠星石も未だ勝負を捨ててはいなかった。 「フッ、まだ居たのか」 シャドームーンは捕まれた腕を力づくで振るう。 薔薇の花弁を伸ばしていた翠星石の方が軽々と引き寄せられた。 「ひ、引っ張るんじゃね……ぐっ!」 「! 翠星石いぃぃぃぃぃぃっ!!!!」 眼を剥いて、息を呑む翠星石。 真司の絶叫が木霊する。 しかしその叫びに反応する者は居ない。 誰もが皆、翠星石の姿を見ていた さながら百舌のはや贄のごとく、サタンサーベルに胴体を貫かれた翠星石の姿を。 必ず守ると誓った少女だった。 劉鳳に、何より自分に。 しかし真司の誓いは無残にも踏み躙られた。 胴体を串刺しにされた女。 それはエレナとは似ても似つかぬ人形。 しかしヴァンにとって、胴体を貫かれた翠星石の姿は、 あの日、カギ爪の男に奪われた花嫁と重なった。 満身創痍だったはずの真司は、叫びながらシャドームーンへ向かって行く。 そこへ先刻と同じく、シャドームーンがサタンサーベルを軽く振って翠星石の身体を投げつける。 変身もしていない真司にそれを受け止める力は残っていない。 懐に飛び込んできた翠星石の勢いに負けて、地面を転がった。 「チェストオォォォォ!!」 ナイトが気勢を上げて掛かって行く。 先ほどまでの動きの重さは無い。 それでもダークバイザーツバイはシャドームーンのサタンサーベルに止められた。 シャドームーンはどこまでも揺ぎ無き王者として君臨し続ける。 「気に入らねぇな!! 女を殺して王様気取りか!!」 「何者であろうと、ゴルゴムに歯向かう者は生を許されん」 シャドームーンと鍔迫り合いのまま舌戦をするナイト。 次の瞬間、ナイトは眩い光に包まれる。 光と共に全身を襲う衝撃。 (この光は……あいつのビームか!?) 生身のまま大型車に撥ねられたような衝撃の中、ナイトは自分を襲った光がシャドービームであると知る。 シャドームーンは片手でナイトと鍔迫り合いをしていたため、もう片方の手でビームを放つことができたのだ。 「ヴァン!!!」 光に呑み込まれるナイトを見て、C.C.はらしからぬ悲痛な叫びを上げる。 ナイトは光から後ろ飛びの体勢で飛び出して来た。 空中でナイトの姿が、鏡が割れるように散開する。 そしてヴァンが姿を現した。 ヴァンの着地点に先回りしたC.C.は、その身体を受け止める。 ヴァンの状態は医学に疎いC.C.から見ても正に満身創痍。 手足をただ動かすのですら、痛みでままならない様子だった。 「うっ……お前、こんな所で何をやっているんだ!?」 「変身も解けたお前では、戦闘も任せては置けんな」 「護衛される奴が護衛と前に出てどうするんだ! さっさと逃げろ!!」 ヴァンはこの期に及んでもピザで結んだ契約を命懸けで守るつもりらしい。 一度こうだと決めたことは、どうあってもやり抜こうとする。 どこまでも愚直なのがヴァンと言う男なのだ。 不意に強烈な閃光が走る。 シャドームーンの指先から放たれたシャドービーム。 その閃光はC.C.の顔面、を横切っていく。 後方で着弾。爆発。 爆発の傍らでは、上田が空中を舞っていた。 どうやら上田は一人で逃げ出そうとしていたらしい。 あの男もどこまでも上田らしくある人間だった。 そしてシャドームーンもまた、どこまでも絶対の王者として君臨し続ける。 C.C.たちに絶対の死を齎す者として。 C.C.は想う。 私はシャドームーンとの戦いによって、長い人生において何よりも望み焦がれた死を手に入れるとしよう。 そして私を護衛すると言ったヴァンもまた、私と運命を共にする。 それはとてもとても甘美な夢。 本当に夢のように素晴らしい人生の最後だろう。 しかし今日出会ったばかりのヴァンは、私が死を望んでいることすら知らない。 そんな人間をピザを理由に死出の道連れにするのは、さすがに冗談が過ぎる。 まして死を望む者の夢の道連れに――――。 「ヴァン」 「なんだ?」 「お前がピザの分は働いたことを認めてやる。護衛は……もういい」 C.C.はヴァンに契約の破棄を言い渡しす。 今更遅すぎたかも知れないが、この愚直な男をピザの契約で自殺志願者と心中した道化にするよりマシだろう。 そしてヴァンを置いて歩き出す。 シャドームーンへ向かって。 「馬鹿野朗!!! 死にたいのか!!」 「かもな」 満身創痍で最早動くこともままならないヴァンは、地面に横たわりながらC.C.の背中に向けて声を張り上げる。 それに背中を向けたまま、どこか投げやりな調子で返答するC.C.。 「フッ、あの時虚仮脅しで時間稼ぎをした女か」 「安心しろ……もう虚仮脅しは使わん」 無防備に近付いて来るC.C.を見て、シャドームーンは奇妙な違和感を覚える。 その言動ではなく姿に。 その姿に何かが足りないような、奇妙な欠落感だった。 しかしすぐに気を取り直す。 今から殺す人間の姿に気を取られても仕方ない。 サタンサーベルを振り被るシャドームーン。 ついにC.C.に望んでいた死が訪れる。 不思議と喜びは無かった。 恐怖はあったが、それも些細なことだ。 ただ最も強く明確に在ったのは孤独感だった。 (死とは寂しい物だな……) しかし最早どうしようもない。 この途方も無い孤独感を抱えて、全ての繋がりを亡くす。 それが死と言う物なのだろう。 振り下ろされるサタンサーベルを見て、C.C.はそう覚悟する。 サタンサーベルが止まるまでは。 「……まだ性懲りも無い真似をするとはな」 サタンサーベルを弾いたのは黒羽。 シャドームーンが向いた先では、翠星石が震えながらも立ち上がっていた。 翠星石は人間ではなく人形。その生命は内蔵に依存しない。 胴体が欠けていた水銀燈が生きていたように、胴体を剣が貫通したとは言え致命傷になるとは限らないのだ。 そしてローゼンメイデンにとって生命とは、ローザミスティカに由来している。 ローザミスティカ四個を有する翠星石は、それだけの生命力を持っている。 「もう止めろ! 逃げるんだ翠星石……」 傍らでは未だ地に伏せている真司が、翠星石に逃げるよう促している。 もう龍騎もナイトも無い以上、翠星石が一人で立ち向かった所で戦力差は明らか。 そもそもまだ生きて活動しているとは言え、立ち上がることも覚束無い様子から翠星石の受けたダメージが大きいことも明白である。 勝算が無いことは翠星石も承知しているはずだ。 「いや……ですぅ…………もう、もうこれ以上翠星石だけ逃げるなんて…………」 しかし翠星石は退かない。 あくまでシャドームーンに立ち向かって行く。 苦悶も露な表情には、しかしそれ以上に鬼気迫るほどの決意が現れていた。 「翠星石、逃げろ…………」 「……………………みんな、みんな死んじゃったじゃねぇですか…………真紅も……蒼星石も…………翠星石の知らない所で…………」 「止せ翠星石!! 私を助ける必要は無い!」 危機が迫っているC.C.自身も翠星石を制止する。 それでも翠星石は止まらない。 「…………これで、真司まで居なくなったら……翠星石は…………もう、一人だけ逃げるなんて嫌ですぅ……」 シャドームーンとの戦いが始まって以来、真司には翠星石の様子がずっと疑問となっていた。 明らかにシャドームーンを恐れていた翠星石が何故、何度も無謀な攻撃を仕掛けていたのか? 翠星石が戦いを好まないのは、真司でも充分に察することができた。 しかしシャドームーンとの戦いで見せた異様な戦意。 その常軌を逸した翠星石の様子が、真司には疑問だったのだ。 それでもここに来て、真司はようやく翠星石を誤解していたことに。 翠星石は敬愛する父ローゼンがアリスを望んでいることを知りながらアリスゲームを、姉妹で戦うことを否定していた。 それは闇雲に戦いを“恐怖”していたのではなく、純粋に戦いを“嫌悪”していた。 姉妹同士が傷付け合い、命を奪い合う。 幾ら父の望みでも、それだけは許容できない。 翠星石はそれほど親しい者が傷付くことを嫌っていた。 しかし殺し合いは、掛け替えの無い姉妹を翠星石から奪っていった。 大丈夫なはずが無かった。 たった一日の内の出来事なのだ。 劉鳳が目の前で死んだのも。 真紅の死を知ったのも。 蒼星石の無残な遺体を見るのも。 水銀燈が目の前で殺されたのも。 真司の前では気丈に振舞っている、と言うことではない。 真司が傍らに居たから、それでもここまで精神の安定を保てていたのだ。 だからこそ、また親しい者が死ぬことを何より恐れるし、 姉妹を傷つけて尚も血を求めるシャドームーンが許せない。 翠星石は一度シャドームーンに敗北している。 シャドームーンへの恐怖は強い。 しかしシャドームーンから逃げ出して、自分の預かり知らない所で誰かが犠牲になる方がより恐ろしかった。 ましてや殺し合いの中で、傍らに居て自分を支えてくれた真司を失うことは。 自分が戦いの中で犠牲になった方がマシだと思えるほどに。 真司はずっと傍らに居ながら、翠星石がそこまで追い詰められていることに気付かなかった。 それに気付いていれば、翠星石への対応も違っていたかも知れなかった。 そして無謀な真似をさせずに済んだかも知れない。 「…………くっそ……立てよ! 今立たないでどうすんだよ!!」 自分を叱咤する真司。 これ以上、後悔があってはならない。 真司は渾身の力を込めて立ち上がり、膝から崩れ落ちた。 どれだけ自分を奮い立たせても、肉体には限界がある。 サバイブでの戦闘。それによるダメージは真司をこれ以上なく蝕んでいた。 遠ざかる翠星石の背中。 その向こうから、シャドームーンが近付いていた。 「…………おめーなんぞに……誰も、殺させな…………」 「では心残りの無いよう、お前から殺してやる」 「止めろ! 私が……っ!!!」 食って掛かるC.C.を、シャドームーンが見向きもせず殴り飛ばす。 木っ端のごとく容易く吹き飛ぶC.C.。 誰もシャドームーンの暴虐を止められない。 ただ、翠星石に確実な死が迫るのを見ているしかない。 真司も倒れ伏したまま、誓いの破れる時が来るのを待つ。 そこに聞き覚えのある声が届いた。 『――――また、目を背けるのか!?』 翠星石が後ろに倒れる。 シャドームーンと翠星石の間に白い人形が現出。二人の間に立ちはだかっていた。 翠星石はそれを知っている。 絶影と呼ばれる自立可動型アルターであることを。 「絶……影……?」 「フッ、あの時の人形か」 前触れもなく出現した絶影にも、シャドームーンは動揺することは無い。 それの発生源を知っているからだ。 「あいつが、作り出した能力なのだろう?」 マイティアイで真司を見据えるシャドームーン。 シャドームーンは以前にも絶影と戦闘したことがある。 その時の状況から、絶影の発生が真司に由来する物だと知っていた。 (ごめん、もうこれ以上は無理だよ……) 真司は胸中で声に対して謝罪のをする。 誓いを果たせなかったことを。 誓いをした相手に。 『――――謝罪など意味が無い! 翠星石を守ると決めたのなら、最後まで立ち上がって戦え!!』 (……もう、本当に立ち上がる力も残っていないんだ) 『力ならまだ残っている。俺から受け継いだ力が』 (…………劉鳳?) 『俺とお前の、二つで一つにして――――唯一無二の力を』 シャドームーンは真司へ向けてシャドービームを放つ。 絶影の防御も間に合わない速度。 その威力なら一撃で真司も、その手に在るカードデッキも破壊できる。 『GURAD VENT』 聞こえるはずの無い電子音声。 次の瞬間、シャドービームが着弾。 爆発が真司を包む。 煙の向こうから現れたのが、銀色の盾を構える真司の姿だった。 (俺……立つことができる……?) 自分の足下から、不思議な力が沸き起こってくるのを感じ取る真司。 見れば自分の足が装甲で覆われている。 龍騎と良く似た、しかし差異のある装甲。 「これは…………劉鳳、お前の……?」 『そうだ。俺とお前の力だ』 「俺は…………まだ戦う力が残っていたんだな」 『そうだ。この力で』 「ああ、この力で」 「『変身」』 手に在るカードデッキから、光る粒子が真司へ伸びて行く。 その粒子こそ、原子構造から物質に干渉・変換を起こすアルター能力発動のサインである。 カードデッキの中に在るアドベントカードに契約によって、内包されているドラグレッダー。 更にその中に眠っている劉鳳の魂。そこに込められたアルター能力が発動したのだ。 アルター能力には自律行動型や装着型など様々なタイプが存在する。 劉鳳のアルター・絶影もまた進化することによって、その形態を変化させていった。 アドベントカードとアルター能力の融合。 それは制限をも超え、更なる進化を遂げた変身をもたらした。 アルターは真司の全身を覆い、装甲を形作っていく。 赤と白が入り混じった鋭角的なデザインの装甲。 それはかつてない力を真司にもたらす。 無双龍の化身が、今再び顕現したのだ。 仮面ライダー龍騎 正義武装。 「連続して変身ができたとはな。もっとも、満身創痍の人間が仮面ライダーに変身したところで……!!」 意表を衝かれ、シャドームーンの言葉が途切れる。 龍騎はそれほどの速さで、シャドームーンとの距離を詰めて翠星石との間に割って入る。 そしてその勢いで顔面を殴り付けられたシャドームーン。 シャドームーンは頭部から崩れるように、後ろへ踏鞴を踏んだ。 (なんだ今の速さと力は!?) 「…………し、真司と……劉鳳…………ですか?」 翠星石は龍騎へ向けて、二人の名前を呼び掛ける。 殺し合いが始まって以来、自分を見守り続けてくれていた二人を。 龍騎は翠星石の方へ振り向いて答える。 二人の声で。 「約束しただろう翠星石」 『後は安心してそこで見ていろ』 「『――――俺たちがシャドームーンを倒す所を!!」』 未だシャドームーンは健在であるにも関わらず、二人の声を聞いて奇妙なほど安堵を覚える翠星石。 緊張の糸が切れた翠星石は、意識を手放した。 龍騎はシャドームーンへ向き直る。 その時にはシャドームーンの左拳が迫っていた。 龍騎もまた、左拳を打ち出す。 空中で正面衝突する左拳と左拳。 甲高い金属音が鳴り響く中、後ろへ弾かれたのは、 シャドームーンの拳だった。 シャドームーンはすかさず反動を使って、右の拳を打ち出す。 今度はエルボートリガーの超振動も加算した威力。 しかしこれも龍騎の右拳と正面衝突。 エルボートリガーの威力ごと後ろへ弾かれる、シャドームーンの右拳。 「馬鹿な!! 人間の変身した仮面ライダーが――――」 シャドームーンの体勢が整わない内に、龍騎の左拳が腹部にめり込んだ。 シャドームーンの金属装甲が悲鳴を上げる。 「――――世紀王を上回ったと言うのか!!?」 龍騎はその場で跳躍し、体重の乗せた蹴りをシャドームーンの顔面へ叩き込む。 シャドームーンの身体ごとが宙を舞う。 龍騎の、先ほどまでの消耗とダメージが嘘のような身体の軽さ。 以前の龍騎――特にサバイブは――変身者の体力を消耗して、その能力を発揮していた。 しかし正義武装となった今は、変身者である真司に消耗がほとんど無い。 それどころか装着している龍騎が、ダメージを受けた真司を支えているような感覚が在った。 今までの仮面ライダーには無い進化を、龍騎は迎えていた。 「……しないな」 『ああ、しない』 「『負ける気がしない!」』 「図に乗るな!」 空中で体勢を立て直していたシャドームーンは両足で難無く着地する。 そしてシャドーチャージャーのエネルギーをチャージ。 更に指先にエネルギーを送り込む。 それがシャドービームの発射態勢であることは、既に把握している。 龍騎の下腹部に在るカードデッキから光の粒子が左腕のドラグバイザーへ向かって行く。 光の粒子はドラグバイザー内でカードを形作る。 新しい龍騎はその手を使わずとも、ベントインが可能となっていた。 『AD VENT』 突如、絶影の身体に皹が入り、そこから光が漏れる。 皹は絶影の全身を覆い、やがて表面部分が内側から崩れ飛んだ。 光と共に中から現出したのは龍。にして絶影。 赤い龍が絶影のごとき装甲を身に付けている。 絶影と融合した新たなるドラグレッダーの姿である。 『剛なる右拳・伏龍!!』 ドラグレッダーから伸びる触手。先には拳が付いている。 その触手から発生する閃光。そして大気を切り裂く衝撃波(インパルス)。 遅れて放たれるシャドービーム。 シャドービームは、シャドームーンの指先同様、照準が龍騎から外れていた。 龍騎を逸れたシャドービームは、あらぬ方向へ消えて行く。 ドラグレッダーが打ち出した拳に、シャドームーンの手が弾かれていた。 『剛なる左拳・臥龍!!』 ドラグレッダーの拳は一対。もう一つ存在する。 続けてもう一つの拳が銃弾のごとき速度で打ち出される。シャドームーンの頭部へ向けて。 シャドームーンは横っ飛びにそれを回避。 音速を超える拳も、マイティアイならば捕捉は可能。 体勢を立て直した時には、シャドービームのチャージを完了させていた。 再び放たれるシャドービーム。 照準はドラグレッダー。 今度の衝撃波(インパルス)は、ドラグレッダーから発せられた。 大気が渦を巻き、シャドービームがその向こうに消えて行く。 そして耳を劈く咆哮。 咆哮の元は上空。 シャドームーンの直上にドラグレッダーが居た。 ドラグレッダーそれ自体もまた、絶影のごとき高速運動が可能となっていた。 『油断をするな! 容赦もするな! 徹底的にやれ!!』 「よっしゃー!!!」 ドラグレッダーは空中でその巨体をくねらせながら、口中から膨大な量の火炎を放つ。 セルシウス度にして7000°Cの熱量はドラグランザーのそれと変わらない。 しかしドラグランザーのそれはあくまで単発の火炎弾。 今のドラグレッダーは7000°Cの超高熱を維持した火炎放射。 シャドームーンの直上から放たれたそれは、一瞬にしてその姿を炎で覆い隠した。 絶え間なく放出される凄まじい量の炎。 先刻のシャドービームにも劣らぬ濁流にして暴流。 それは大量の火の粉を周囲に撒き散らす。 「おぉっ、すっげー威力だ」 『加減はしろ!! 翠星石も居るんだぞ!』 ドラグレッダーの放つ火炎放射の威力は、龍騎にとってすら予想以上だった。 周囲にもたらす被害もまた想像以上。 地面のアスファルトが溶け、近くの街路樹が炎上する。 龍騎は慌てて仲間の様子を伺う。 ヴァンとC.C.の倒れている地点は遠いので、火炎放射の被害を受けることは無い。 翠星石が倒れている地点は炎上する街路樹より更に近い。 今まさに火の粉が飛んで行く地点である。 龍騎もドラグレッダーも間に合わない地点。 7000°Cの火の粉が翠星石を焼く。 寸前に人影が走り去る。 「上田!!! ……さん」 翠星石を抱えて走り抜けていったのは上田。 元々、上田は通信講座で空手を修めるほどの体力を有している。 ダメージを受けた身体でも、翠星石を抱えて走ることは可能なのだ。 翠星石の無事を確認し終えた上田は、得意気な顔を龍騎に向けた。 「実は私はねぇ、以前ウサイン・ボルトに陸上を教えていたことがあるんだよ。スリット美香子と言うインチキ超能力者と対決した時も……熱っ!!!」 「危ないから上田さんは翠星石を連れて、どこかに隠れていて下さい!!」 「し、仕方ないな。私一人ならYOUと協力してシャドームーンと戦っても良いんだが、翠星石を危険に晒す訳にはいかないからな」 「早く!!」 飛び散る火の粉から逃れるため、上田は再び走り出した。 時系列順で読む Back 因果応報―終わりの始まり―(前編) Next 因果応報―終わりの始まり―(後編) 投下順で読む Back 因果応報―終わりの始まり―(前編) Next 因果応報―終わりの始まり―(後編) 160 因果応報―終わりの始まり―(前編) ヴァン 160 因果応報―終わりの始まり―(後編) C.C. 城戸真司 翠星石 上田次郎 シャドームーン
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第四階層・冥府の階層 エストレアが、魔力により巨大な鏡を創り出す。 そこに移っているのは、第四階層、冥府の階層だった。 その階層のエリアは、神風学園のようなものが見えたが、すぐにモヤがかかって見れなくなった。 ―…?― 「どうしたの?エストレア」 ―いや…気のせいだろう。あの悪魔がまだ中間の階層にいるはずがないのだ― 柳茜は、エストレアに尋ねた。 だが肝心な答えは聞けぬまま。 エストレアが鏡の力を終わろうとした瞬間だった。 『アハハハハ!』 女性の声が辺りに響き渡る。 そして、鏡の中に映るモヤが、貴方達のいる拠点へと滲み出てきたのだ! 「な、なにこれ!」 まず佐治宗一郎が倒れた。次に城ヶ崎憲明、紫堂陽人。 それだけではない、織ヒカル、牧本シュウ、風見次郎も倒れ、蒼白い顔で苦しんでいる。 いずれも、鏡に近かった者達。 一番前にいた茜は、エストレアがかばうように護ってくれたため、モヤに触れなかったが。 ―魔女の呪い― 『…噂程度だが聞いたことがある。始祖の悪魔の中に、強力な呪いを使うアドラメレクの右腕がいるってな』 「おい、どういうことだラウム」 エストレアの言葉に呼応するように、悪魔ラウムが凪の体から抜け出る。 白神凪がそれを尋ねると、ラウムは肩を竦めた。 『しらねえよ、俺の時代の時はロノウィ以外いねぇんだしな』 ―始祖の悪魔クラリス。アドラメレクの『裏』の力を濃く受け継いだ悪魔だ。本来なら最終階層である終わりと始まりの地にいるはずの悪魔がなぜ― 「そんなことより、どうにかならんの…!?」 「ヒカルっ…!しっかりして、大丈夫だよ!」 天瀬麻衣や向坂維胡琉の言葉に、エストレアがゆっくりと首を振る。 ―魔女の呪い。呪いを受けた者は衰弱し、やがて死ぬ。解呪方法は一つ。悪魔クラリスを倒すこと― 「なんだ、だったらすぐにでも行って――」 ―おそらく四層の全てのエリアにこの呪いが施されている。四層に足を踏み入れれば、自らも呪いにかかると思え― 「つまりミイラ取りがミイラってことかッ…」 再び映像が見えるようになった鏡に映るのは、大学部と思しき場所の時計の部分。 時計には12の炎が灯っており、やがてその炎は一つ消えた。 ―ユグドラシルの水を飲ませても、おそらく効果はない。やはり、悪魔を滅するしかないだろう― 「あの炎がリミットってわけね。残り11日…ってことでいいの?」 ―然り。27日末日までにクラリスを撃破できない限り、この者達にかけられた呪いは消えぬ。そして、あのモヤがある4層に行けば、その者達は次の探索に出ることはできぬ。よく考えて行動を行うがよい― 始祖の悪魔タイニーデビル撃破 拠点に戻った九重匠は、手に入れた宝玉をエストレアに解放してもらっていた。 ―これで5体目の悪魔。ようやく半分か。…それにしても、お前は寝てなくてもいいのか?― 「…これでもギルド長の意地ってやつでね。見届けてから休ませてもらうよ」 ウバルが張った結界のお蔭で、4層のモヤに触れた者達の呪いの症状は重度の風邪レベルの気怠さになっている。 そのため、今まで起き上がれなかった者もある程度の生活はできるようだ。 ただし、それも制限時間まで。 新たに鬼ヶ原空、日野守桜、甚目寺禅次郎、九重匠が探索不可能となった今、戦力もそがれる事だろう。 そんな中、新たに宝玉が手に入ったのは朗報だった。 「あ、あれ?九重ギルド長!?」 「…君か。よかった、後は任せたよ」 そう、新たに出現した真田斎へと告げると、匠はその場に安心して倒れた。 時計の炎は19日時点で残り8。つまり後8日のうちに、4層を攻略しなければならないだろう。 始祖の悪魔クラリス撃破 ―これで六体目。残る始祖の悪魔は4体となった― 「…私達が寝込んでる間に、何があったの。それに――」 「あー、なんつーか」 ―クラリスの消滅を確認した瞬間、強大な力を感じた。そのため、緊急措置としてその時に手に入れた宝玉を解放したのだ― 「それが俺っつーわけですよ」 そういったのは水鏡流星。 死んだはずの彼が、ユグドラシルの大樹で記憶を流される前の記憶を保持して戻っているのだ。 それも、アドラメレクによる力らしい。 「始祖の悪魔、サルモン。今はもう力を失っちまったけど、ベレトから聞いた情報だ」 ―始祖の悪魔筆頭にして、1,2を争う実力者だと。例え奴の攻撃を無効化した所で、無効化した時に発生する技を繰り広げてくる二段構えの悪魔だ。弱点は無いと言っていいだろう― 「ちょっと待ってよエストレア。さっきからそのサルモンって何なのさ?始祖の悪魔って事はわかるけど、どっから出てきたの」 「クラリスを倒した後に、突如出てきた悪魔ですよ。…そいつにカノンがやられて、俺も凪も立ち向かおうとした時に流星が来たんです」 桐石登也の説明に、ふーんと相槌を返す茜。 「それに負けて、凹んでるんだ?」 柳茜は、休憩すると言って休んでいる、この場にいない白神凪の事を思い返した。 単純にそれだけが理由じゃねぇ、と契約主である凪から離れて話を聞いている悪魔ラウムが返す。 「負けたから強さに凹んでるんじゃねぇよ。それに仮にそうだとしても、おそらく砂時計を発動したところで砂時計で吹き飛ばした時間の流れの中でも動いてくるだろうぜ。そんな化け物相手に臆するなって方が無理な話さ。それに凪はそんなタマはしてねぇよ」 「…え?それ本当かラウム?」 登也の表情が強張る。 砂時計が効かない、となると登也の手札が一つ封じられたも同然だからだ。 ラウムは「ロノウィから聞いたウバルから聞いた又聞きだがな」と頷き返し、続けて 「要するに、砂時計は超加速して気づいたら時間が過ぎてたっつー理論の魔術だろ。あいつにはどんな超スピードや催眠術とかも効かねぇ。言っちまえば、俺ら五体の…いや、ロノウィのクソジジイは始祖の一体だから、正確には4体のオリジナルともいうべき悪魔だ。それに体力は化けモンレベルであるし、補助なんて一瞬で打ち消してきやがる」 その言葉に全員が沈黙した。 まさに打つ手無し。最強の悪魔と言うべきなのだ。 「弱点が無いわけではない」 「!?」 今まで沈黙していた悪魔ウバルの言葉に、驚くラウム。 ロノウィ殿から聞いたのだが、と自分も正確には知らないことを伝えると 「時間停止。それだけは奴も解除できないと効く。遅延だろうが加速だろうが、ついてこれても停止だけはな」 「なにそれ。加速についてくる奴なのに、止まった時間は動けないって?」 「それに問題点も一つあるぜ。この中で、時間停止なんてタイムマシン作成を使える練くらいのものだろ?」 少し考えたが結論は出ず、見かねたエストレアが口を開く。 ―とにかく、更なる階層に向かうがいい― ≪ツヅク≫
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エピローグ~one year later…1~ 飛鳥・バーゲスト街中。 その日、小さな教会で結婚式が行われていた。 元神風学園生徒、向坂維胡琉。 そして、その後輩の赤音鞘人の結婚式である。 アドラメレクが作り出した異世界から帰還し1年。 元の世界から色々と変わってしまってはいたが、彼女達の関係は変わらなかった。 世界改編後でも変わらなかった、高等部時代の二人の想い出の飛鳥留学。 関係者こそ少なかったが、そこには彼女らを祝福するために、大和、飛鳥両国の参列者が集っていた。 「維胡琉先輩、鞘人おめでとー!!」 「いこるんキレイだよー!!」 その中に、改編前は水鏡流星に殺害されていた織ヒカルの姿。 現在は訳あってハンターを辞めた烏月揚羽達のことも考慮しての飛鳥での結婚式だった。 続けて式は終わり、披露宴へと移る。 「…しかしまあ、意外と集まるもんですね」 「お前や俺はともかく…意外と言えば意外な気もするな」 参列し、続けて披露宴で同席になった桐石登也の言葉に、賛同するように白神凪や揚羽が頷いた。 言葉の意図がわからず、きょとんとした顔をしているのは彼らの目の前にいる北嶺真帆だった。 「…飛鳥は可愛い魔物が…いっぱい…。特にこの魔物は……」 彼女は携帯電話を取り出し、写メの画像を見せていく。 むいむいを始め、そこにはたくさんの魔物の姿が映っていた。 電波は届かなくとも、カメラ機能があるだけで十分なようで、得意気だった。 「と、とにかーく!きりしー達久しぶりだよねっ!元気してた?」 真帆の魔物話が延々続く予感に、苦笑しながら話題を変える揚羽。 その言葉に力強く頷く二人。 まずは凪が口を開いた。 「まあ、な。今は大和でハンターを続けながら、長期休みに城ヶ崎教授と各地に旅をしている…感じだな」 「俺は凪とは違って、飛鳥でハンターやってますよ。揚羽さんこそ今どうなんですか?ほんっと久しぶりに顔を見た気がするんですけど!」 1年経って、劇的な変化こそないものの、この場にいる者達は全員が何らかの変化があった。 「あたしはねー、ご存知のように久遠さん達と一緒にいるんだー」 「…だから、ハンター辞めちゃったんだ…」 いつの間にか、お色直しをしてきた維胡琉が、寂しそうに揚羽の背後から呟く。 驚いたものの、揚羽は苦笑をしつつまずはその事を謝り。 「ごめんね、いこるん。あたしも辞めたつもりはなかったんだけどさー」 「あれ、真っ先に茜ギルド長が揚羽たんの事を裏切り者として祭り上げてたぞ」 「はぁ!?なにそれ!?」 隣のテーブルから聞こえてくる声に、揚羽は怒りの怒号を放つ。 茜ギルド長、新城抉。 彼が契、久遠、キナの3人と揚羽が行動を共にしていると知ったがすぐに、ハンター登録を抹消して犯罪者の一人として賞金をかけたようだ。 と、声の主であるファニー・マッドマンは語る。 「つーかなんでお前がいるんだよ!?」 「天瀬先輩と一緒にいるんじゃねぇのかよ?」 「話せば長くなるのよ。まあ、もうそろそろ大和に帰るよ。愛しの妹、空たんを不肖の弟にいつまでも任せてなどおれんしな。あ、いこるたん結婚しても可愛いよハァハァ」 「ちょっと!もういこるんは人妻なんだからね!」 「ごめんなさいファニーさん」 「…で、こっちの魔物はアルレイアって言うのだけれど…」 ギャースカ騒がしいテーブル席(と隣の1名)に、他のテーブル席から白い視線が向けられる。 やはり飛鳥の地ということで、飛鳥人が多く、7割以上は飛鳥の人間だ。 「相変わらずだなーあっちは」 「主役喰ってるネ」 「お前らは物理的に食ってるけどな?」 ヒカルと葎イクルの二人は、目の前の空皿の量に引いてる日向ヒュウガに言われ、顔を見合わせた。 「そんな事言ったって、なぁ?」 「この1年、マズイ飯ばっかりヨ。こんな美味いご馳走久々アル」 「嘘つけ!先週揃って飯屋連れてったやろ!」 「そこの飯屋が不味かったっスよ…」 「量だけヨ。先輩見る目無いネ」 「うっさいわ!…なんでオレの下には、こんな奴らしかこんかなぁ…」 悲しそうに呟くヒュウガを慰めようと、二人は軍のカードを見せた。 そこには別々の所属が書かれた二人の名前が見える。 「…何の真似や?」 「いや、俺は第三師団所属っスし」 「ウチは特魔部隊所属ヨ」 『来月で終わる、新人研修までの付き合いっス(ヨ)!』 「うっさいわ!!はぁ…なんでオレ大尉にもなって新人研修やってんやろ…」 声に揃えて言う二人に、怒声を放つヒュウガ。 疲れた表情をしながら、少し羨ましそうに維胡琉達の姿を見ていた――。 ◆ファニー・マッドマン 異世界から帰還後、聖痕の経過を診るべく天瀬麻衣と行動を共にする。 悪魔という性質はそのままだが、本人曰くただの人間と大差ないレベルにまで力は落ちているとのこと。 近々、麻衣と別れ大和の自称・愛しの妹の元へ帰るつもりのようだ。 ☆ 「…」 やがて披露宴も中盤に差し掛かった頃。 飛鳥軍の5佐と呼ばれるうちの一人、響ルナリアは重大な事に気づいていた。 「…え?新郎新婦、どっちも大和の人間ですの…?え?なんで飛鳥で式を?ってか誰ですの!?ムキィー!!」 「アカン!織、葎!」 「イエスサー!」 「合点承知アル!」 かんしゃくを起こした響大佐を一瞬で落とすヒカルとイクル。 ティターニアにある、所属前に一時的になる新人育成研修棟でこの1年間、訓練を積んだ二人にとって、大佐程度を落とすくらい訳もないこと。 なぜならば、響ルナリア大佐といえばよくかんしゃくを起こすことで有名な人物。 その彼女を如何にキレイに落とせるかが、一つのテストとなっている。 「そもそもこのテストってオカシイっスよね」 「上官にこんな事したら、普通なら打ち首獄門ヨ」 「オレは止めたんやで?響大佐の新人育成メニューの中に入っとるんやししょうがない」 「ルナりん、色々棄ててるね…」 「さすがな俺でも、俺以上にイカれた女はノーセンキュー」 いつの間にか、ファニーや揚羽が混ざり、落ちて意識が無いルナリアを哀れみの目で見ていた。 留学生でもあったヒュウガと、親し気に軽い挨拶を交わすと、ヒュウガがまずは揚羽に聞いた。 「揚羽ちゃん契達と一緒におるって?」 「う、うん。そだよっ!」 「ほんとっスか?キナさんや久遠さんには世話になったっスけど…」 「契はあんまり印象ないヨ」 「えーっ!?契さんの力も、めちゃくちゃ助かってたじゃんっ!」 ヒカルとイクルの言葉に、あからさまに変な顔をする揚羽。 そうだっけ?と顔を見合わせる二人に、一人話についていけないヒュウガは三人にジト目を送る。 「オレの知らない所で、揚羽ちゃんが誰とどういう関係になろうが構わんけどな。 織に葎!お前らいつ、どこで賞金首に世話になっとんねん!」 「あっやべっ」 「キバにしか話してなかったの、忘れてたアル!」 ◆織ヒカル 異世界から帰還後、軍学校を卒業(という風に世界が改変されていた)。 その後軍とハンターで迷ったようだが、死んだ父と同じ軍属へ進む。 第三師団の期待のルーキーとしての実力がある一方、憧れのハンターである鞘人を目指し、退役。 その数ヵ月後に飛鳥支部のハンターとして転職する事になる。 ◆葎イクル 異世界から帰還後、ヒカルや黒崎キバと共に軍学校を卒業。 軍役の道へ進み、その魔術の才能から魔術に特化した新設部隊、特科魔術部隊への配属となる。 後にヒカル、キバらとは配属や職業こそ違うものの、時折3人で食事をしたりする仲らしい。 ☆ 逃げていった二人にため息をつくヒュウガ。 顔を戻し揚羽へと再度向き直ると、再度質問という名の尋問を開始した。 「で?洗いざらい話してもらうわ。今の潜伏先とかもな」 「え?そんな事いうわけないじゃんっ!」 「…まずその顔どうにかせえよ…。揚羽ちゃん、緩みっぱなしやで?」 「そ、そんなことないって!」 慌てて否定する揚羽だったが、思い出したのは昨日の夜の出来事。 ☆★☆ 「…あっ、おかえりなさい!」 開かれた扉に真っ先に振り返るのは、エプロン姿の揚羽だった。 「小鳥な姉さん、今日も可愛らしなぁ~。パパにお帰りのハg……!!」 「…ぎゃっ!?汚いっ!!?」 両手を広げて抱き着こうとする男、『契』に豪快に蹴りを入れる揚羽。 契はそのまま床に突っ伏し、シクシクと泣き始めた。 「酷いですわぁ~…パパに向かって汚いってなんですの!」 「契、お帰り…。」 揚羽と共に家で待っていた少女は、倒れる契の傍らでぽんぽんとその頭を叩いた。 「キナ、揚羽に習って、お味噌汁、作る、した。…食べる?」 「……キナちゃーん!やっぱり、私の癒しはキナちゃんだけですわぁーーーっ!!」 「……またやってんの、旦那。飽きないね…。ただいま、揚羽。」 『キナ』の言葉に、顔をあげ泣きながらキナを抱きしめる契。 そしてそれを冷ややかに眺めながら、部屋の奥へと入っていくもう一人の男…『久遠新』。 久遠に平然と荷物を手渡されると、揚羽はむっと頬を膨らませた。 「久遠さん冷たいっ!たまには助けてくれてもいいじゃんっ。」 「…………それよりシャワー浴びたいんだけど………一緒に入る?」 「……なッ!!」 これも毎度の事と、面倒そうに息を吐き、汚れた服のボタンを外しながら目を細め緩やかに笑うと、そっと顔を寄せながら揚羽の頬を撫でた。 揚羽は耳まで真っ赤になって言葉を失う。…今日も完敗のようだ。 ☆★☆ 「…おーい、揚羽ちゃーん。…アカン、自分の世界に入っとるわ…」 「そんなことないしっ!!てゆーかヒュウガこそどうなのっ!ヒメとさっ!」 からかい口調のヒュウガの声で我に返った揚羽は、この場にいない軍人の事を口に出す。 揚羽が気になりながらも、契達と共に歩むために、その後を見てあげられなかった少女の名を。 「…あー、聞いとらんかったか」 「え?ヒメに何かあったの!?勿体ぶらないで言えっ!」 「ちょ、ギブギブ!言うから!死ぬ!!」 胸ぐらを掴み、問い詰める。 苦しさのあまり、顔を蒼白にしながら彼女の手を叩きギブアップを伝えると、観念するようにヒュウガは語った。 「あれは…1年くらい前やで。突然、椿が南部遠征に参加する言うてな」 「なんぶ…?えんせー?」 「飛鳥の南部の湿地帯の魔物討伐の遠征軍ってことだよ揚羽たん」 「うっさい!それくらいの意味はわかってるよ!」 ファニーの横槍に突っ込みながら、納得するように揚羽は息を吐く。 ☆★☆ 飛鳥南部の湿地帯は、定期的に軍による魔物討伐の編成がされ、実行される。 しかし、かなり危険な任務になる。 最速のフォルケニウスの鳥車を使っても、片道で丸1日はかかる。長旅に加え、そこの魔物も王都オベロンの霧の大地アヴァンクと同等レベルの魔物が出る、飛鳥でも有名な危険地帯だ。 かつて、軍人だったヒカルの父親もその遠征で殉職をしたのだ。 ヒュウガはヒカルとイクルが、離れたテーブル席の登也や凪と話しているのを見て、少しほっとした。 彼らも、軍学校時代にヒメは先輩として、面識があったはずだったから。 そして、ヒカルの殉職した父親の事を思い出させるからだ。 『ヒメはぁ、ずーっとシュウの味方で、シュウのそばにいるの。そう、ずーっと言ってたのになぁ』 『ヒメの言葉、誰にも伝わらなかった。代わりじゃないのに、依存じゃないのに、ヒメのこと…』 遠征前夜、偶々帰り道の公園で聞いた呟き。 ☆★☆ その続きは、椿ヒメもヒュウガに気づき逃げるように立ち去っていったため聞けなかった。 が、もう一度ため息をつくと彼は揚羽に笑いかける。 「ま、オレがボウガンで射抜いてもピンピンしてる女や。死んだって報告は無いし、どっかで生きてるやろ」 「…そっか。…うん、そうだねっ!あたしも落ち着いたら、もっと飛鳥で動いてみよー」 「オレら軍の目にかからん程度にして、頼むで?」 大丈夫だって!と笑う揚羽は、自分のお腹をさする。 その行為に、ヒュウガの視線が厳しくなるが、諦めるようにため息をついたのだった。 ◆烏月揚羽 異世界から帰還後、迎えに来た久遠と共に、契・キナと4人で逃亡生活を始める。 大和では指名手配されているものの、飛鳥ではそれがなかったため、変装をしてバウンティハンター(飛鳥の賞金首討伐専門に活動しているハンターのこと)として活動している姿が見られることも。 ◆契 異世界から帰還後も、一家に揚羽を加えるも生活は左程変わらず。 賞金首としての額を上げつつも、娘であるキナや揚羽の成長を微笑ましく見守っていく。 ◆久遠 異世界から帰還後、揚羽を迎えに来て、共に逃亡生活を送ることになる。 揚羽とは意外にもラブラブで、彼女のお腹には愛の結晶も育っているようだ。 ◆キナ 異世界から帰還後も家事を継続しており、揚羽に習いながら料理等の勉強中。 できないタイプではないため、ハラハラしながら見守る契を他所に、主婦としての実力をつける一方、彼女自身に眠る魔導の力も制御するため、少しずつ歩みを始めた。 ◆椿ヒメ 異世界から帰還後、南部遠征へと志願し、遠征中に行方不明になる。 『こんな自分』を嫌いになっていく前に、周りを傷つけてしまう前に身を消した彼女も、また一つの結末なのだろう。 ちなみに、ヒメが消えた直後にシュウ以外の面々も軍を退役し、姿を消したようだ。 ☆ 「なんなら、この後一勝負といくかい?いい場所知ってるんだぜ?」 「乗った。ラウムの力で勝ってた、とは思われたくないしな」 少し前、「登也先輩と凪先輩、結局どっちが強いんスか?」というヒカルの一言で、二人は好戦的な笑みを向けた。 登也は凪に、現在のところ1勝3敗1分をしている。 帰還後、しばらくしてから勝負をしたが、その時は勝負がつく前に近くで事件が起こったため、中断となったため一分けとなっていた。 だからこそ、因縁の対決に決着を、と思っていたのだが…。 「…ダメ。バーゲストの遺跡内部でしょう?」 「え…?そうですけど…」 「あー、あそこか」 意外な所から挙がった声に、凪は場所を納得し、登也は驚いた。 まさか真帆がダメというとは思わなかったからだ。 「あそこは、来月までアナグラむいむい達が繁殖活動をしているの。妨害してはダメ」 「はぁっ!?いつの間にそんなむいむいが!?」 「突っ込むところはそこじゃねぇだろ…もういい、またの機会だな」 「…なんだか悪いな、凪」 「気にすんな」 せっかくの勢いが削がれ、料理を食する事に専念する二人。 そんな二人を他所に、一人守ったと満足気な表情の真帆がそこにいた。 ◆北嶺真帆 異次元帰還後、異次元で見た飛鳥の魔物のバリエーションの多さに魅了され、ハンターギルド飛鳥支部への移籍を決意する。 元々スラム第三エリアの出身で、同郷である槐シドと尸ヨミに止められたものの、彼らの言うことを無視して大和から離れ、飛鳥の地へ。 魔物中心の生活は相変わらずだという。 ☆ 「そう、残念ね…」 「悪いな向坂。本当は俺が代わってやりたい所だったんだがね」 結婚披露宴も終了し、帰りの挨拶の時に、維胡琉は美澄少尉と会話をした。 勤務が交代になった一ノ瀬軍曹と共に来ていた彼らは、最後に招待してくれた維胡琉へと礼を言う。 「二ノ宮も連れてきたかったんだがね…上官より先に死なれちまうんだもんなぁ」 「少尉、祝いの席で言うことじゃないかと」 「おっと悪い、歳を取ると感傷的になってダメだねこりゃあ」 冗談のように笑い飛ばす美澄。 一ノ瀬軍曹は、飛鳥の北方砦の事件での殉職だったため、改変後の世界では死んでない事になっていた。 だが、二ノ宮は大和での怪異に巻き込まれた時に死亡したため、アドラメレクの世界改変の対象にならなかったようで。 維胡琉は言っても信じてもらえない、異次元での話を胸に留め、悲しそうな表情を向けつつ見送った。 「維胡琉さん!すっごくキレイだったっスよ!!」 「あ、ヒカル。今日はありがとう」 一度首を振ると、維胡琉は笑顔を走ってきたヒカルへと向けた。 思い出の地ということもあったのだが、目の前の少年のこの笑顔を見れただけでも、飛鳥でやってよかった、と思えた。 「あれ?そういや牧本さんは来てないんスか?」 「うん。美澄さんが、一ノ瀬さんの勤務と代わってもらったって言ってたよ」 「え?牧本さんをわざわざ?あの人、今日休みって聞いてたのに」 「そうみたい。なんか、重要な用事と重なっちゃったとからしくて」 なんすかそれ!と理不尽な交代に、キレ気味のヒカル。 そこに、同じように走ってきた揚羽の姿があった。 抱きついてきた揚羽を、よろめきながら受け止める。 「いこるーん!マイティきたっ!?」 「うわっと…そういえば見てないかな?」 「きてないの!?まったくもー、いこるんの招待状、見てるはずなのにっ!」 「ヒメたんの事を任されたのに、目を離したから罰が悪くてこられないんだろう」 「いや、あんたもマイティと一緒にいたでしょーが!」 怪しさ大爆発な態度の…具体的に言えばキョロキョロしているファニーに、吐けというように胸ぐらを掴み問い詰める揚羽。 「おおっと、俺はヒメたん救出に向かう王子役になりにずらかるぜーっ」 「あっ…ファニーさんもありがとう!」 全速力で逃げていくファニーを見送りつつ、維胡琉は手を振った。 来られない者達も大多数はいたが、それでも今日この日が、維胡琉にとって大事な日となったのは言うまでもないだろう。 ◆向坂維胡琉 異次元帰還後、ハンター活動を続けながら1年後の今日、飛鳥で恋人の赤音鞘人と結婚式を挙げた。 その後は彼と共に、世界を巡るハンターとして活動をしていく(といっても、大和飛鳥出雲以外でハンター活動の認可はされていないため、他の国ではハンターとして活動は大っぴらにできなかったが)。 悪魔ベレトの目撃情報を耳にしては、大和に帰国している彼女達夫婦の姿があったようだ。 ☆ 同日、飛鳥バーゲスト郊外。 元々一ノ瀬軍曹の勤務担当であったエリアの管理を任されていた牧本シュウは、警らをしながら、巡回エリアの公園の時計の時刻を確認して一つ息を吐いた。 「もう結婚式は終わったかな。維胡琉には、今度謝らないと…」 美澄少尉の命令とはいえ、元々の休みを潰したのは結局は自分の意志だ。 維胡琉を祝福したくないのかと言われたら、確実に違うと言える。 だが…素直に心のそこから、笑顔でおめでとうという事は難しいだろう。 ヒメをはじめとして、V、刻亥ナジム、芙蓉は姿を消した。 連絡を取ろうと思えば取れるのかもしれないが、別れる前に訪ねてきたVが言った言葉、「テメェはもう仲間でもなんでもねぇ」という一言が引っ張っているのだろう。 おそらく出席したところで、普段通りに振る舞える筈がなかった。 更に麻衣は現在、自身の事で忙しいらしく、シュウもまた軍の任務で、連絡も1月に1度くらいになっていた。 電話が使えず、手紙でのやり取りというせいもあるのだろう。 「結局、僕は何も変わってなかったのかな…」 また、昔みたいに戻るのだろうか。 闇を抱え、人を拒絶し生きていくのだろうか。 弱くすぐ折れそうな心だったが、案外、そうでもないらしい。 人は変わるもの。 すぐに大きな変化は起こせないが、小さい事が積み重なり、それはやがて大きな支えとなる。 「とりあえずは、今はそれでええんやない?」 不意に、背後から聞こえた一言。 振り返ると、そこにははにかむような笑みを向けた麻衣が立っていた。 なんで、と思ったが、すぐにそれが美澄少尉の仕込みだという事に気が付く。 1年は経たないものの、最後に会ったのは、もうそれくらい前になる。 でも、肝心な時はいつも傍にいてくれた。 シュウが変われたのだとすれば、それは麻衣がいたからだろう。 敵として出会い、全力で叱って、一緒に歩んでくれると誓った彼女がいたから。 「…そうだね。でも、甘ったれんのもいい加減にしないとね。僕だけが違うわけじゃないんだから」 「…いつまで覚えてんの…」 恥ずかしそうに言う麻衣を、笑って抱きしめる。 そして小さく「ただいま」「おかえり」と――。 ◆牧本シュウ 異次元から帰還後、ヒメの行方不明、仲間達が離れていく事に、一時期は苦悩した。 しかしいつも支えてくれた麻衣と共に、これからも歩き続ける。 麻衣だけでなく、美澄や一ノ瀬、他の者達もまた、シュウにとって無くてはならない存在の欠片となったのだから。